第32章 夢を諦める方法
世界が、ひっくりがえった気がした。
「な、なに…言ってるの?」
月が宇宙から降ってくるみたいな。
「この前ね、優くんが計画立ててくれたんだよ。ひよこちゃんを助けに行く計画。」
優。
ずっと会ってないな。
毎日会っていたのに。
「それでね、優くん言ってたよ。ひよこは、僕のヒーローだ、ってね。」
「私が……ヒーロー…?」
固まった私の頬を、彼はくっと抓った。
「うん。僕も。僕にとってもだよ。」
「へ?」
「ひよこちゃんは、僕をずっと応援してくれてた。それが嬉しくて、それのおかげでずっと。」
出久くんの目も少しだけ潤んで、それから彼はヒーローみたいに笑った。
「ひよこちゃんが居てくれたから、僕は今も頑張れてるんだよ。だから、ひよこちゃんは、ヒーロー。」
「そんな、私…」
「誰でもヒーローになれるわけじゃないけど、でも、誰がヒーローになってもおかしくないんでしょ?自分の限界は、自分で決めるんでしょ?」
「あ…」
その言葉には、聞き覚えがあった。
出久くんは今度はヒーローじゃなくて、子供みたいな笑顔をして。
「僕ねその言葉、すごくすごく、嬉しかったんだよ。本当に、嬉しかったんだよ。」
わけわかんない。そんな私の涙は次第に種類を変えて、勢いを増す。
私はとうとう我慢出来なくなって、心の中をぶちまけた。
それは汚くて、ダサくて、かっこ悪くて、恥ずかしくって。ぐちゃぐちゃで、文法もめちゃくちゃで。
でもそれが、私で。
「私…本当は…本当は、ヒーローになりたい…。なっちゃいけないって……お父さんの夢もお母さんの幸せもめちゃくちゃにして、そんな私が、ヒーローになりたいなんて、言っちゃダメだって…思う。そんなの関係ないって、みんな言ってくれるけど…そうしないと、私の罪は、はれなくて。
…でも、私、私も…ヒーローに、なりたい…」
それがわたしの、願いだ。
「…うん。大丈夫、なっちゃダメなはずが無いよ。ひよこちゃんがどう変わっても、どんな道を進んでも、少なくとも僕にとって、大切なヒーローってことは変わらない。」
彼は優しくそう言って。
彼がくれた宝物のような言葉は、ずっとずっと、言ってもらいたかったもので___
「君は、ヒーローになれる。」