第32章 夢を諦める方法
「あ、あれ…ごっ、ごめんっ…これは、違うの…!」
何故だか止まらない涙に、私は困惑した。
両手で必死に涙をぬぐっても、心はどんどん悲しくなって。
「私、嫌なやつ…なの。せっかく助けてくれたのに、戻ってこれたのに……私、変な気持ちでいっぱいで……」
声を出せば出すほど涙が溢れて鼻水が出た。
出久くんの前で泣き出してしまったのは、もう何回目だろう。
そんなとき、出久くんはいつだって
「泣かないで。」
出久くんはすっと近くに来てくれて、私の頬をその大きくてゴツゴツな手で包む。
それは暖かくて、優しくて。
もっと涙が出た。
「だって、お母さんの大切な手紙も…怖くて読めない…!」
「ひよこちゃんは嫌なやつじゃないよ。」
「なんでか分からないけど、出久くんを見て、悲しい気持ちになったの…!嫌なやつだよ…!」
「ううん。違う。」
子供に言い聞かせるような。
そんな優しい声に、包まれた。
「ひよこちゃんは、僕にとって大切な人。はなさんにとっても、優くんにとっても。クラスの、みんなにとっても。」
その声は、私には優しすぎて。
「わかんないよ…。なんでそんなに……大切にしてくれるの?」
私は困惑した。
そんな、困るような質問をしてしまった。
そんな質問にも、出久くんは底なしの優しさで答えてくれて、
その答えは、私の世界をひっくり返すものだった。
「ひよこちゃんは、ヒーローなんだよ。」