第32章 夢を諦める方法
その日はリハビリもして、身体が大体元通りになってきているのを体感した。
今日はみんな、学校なんだ。
みんな…学校で……。
そんな勝手な淋しさも感じて、私はベッドで手を握り、それから目の端に映るその白い塊を、必死に視界から追い出した。
夕方にはきっとおばさんが来るはずだ。
それならそれまでちゃんと起きてないとなぁ。
そんな、考えなくてもわかるようなことを考えて、何度もその塊を思考からも追い出そうとした。
そうすればするほどモヤが溜まって私は勝手に膝を抱きかかえて唸る。
「んんぅ…うぅぅ…。」
せっかく助けてくれたのに。
せっかく戻ってこれたのに。
もう、悩みたくなんか、無いのに。
悩んでいる頭には、よく音が届くようで。
すっ
と扉が開く音もすぐ耳に入る。
脚から顔を上げて誰が入ってきたかを確認する。
入ってきたのは、出久くんで。
大好きなはずなのに。
大切なはずなのに。
彼の登場を見て、心からドロドロなにかが溢れ出した気がして。
変わってしまったかもしれない私の心が、
怖くて、
怖くて、
涙が出そうになった。
「な、なにしに、来た…の?」
しゃくりあげそうになる喉を抑えて声をかける。
いつものように。
いつもの、自分のように。
「ひよこちゃんに会いに。」
そうやって笑う笑顔は、
いつもみたいに優しくて
暖かくて、
なぜだかそれが、悲しくて。
涙が出た。