第32章 夢を諦める方法
次の日、おばさんの次に来てくれたのは、勝己くんだった。
「勝己くん…。心配かけて、ごめんね。」
昨日、おばさんの初めて見る涙にびっくりした私は、それだけ心配をかけてしまったんだなってわかって。
勝己くんには、まず謝った。
「……」
「…勝己…くん?」
「このっ!!」
「っ!?あだ、あだだだっ!?」
勝己くんは無言でつかつか近づいてくると、思いっきり私の頬を抓った。
ぎりぎりと、地味な痛みは続く。
「なにおふる!!」
私は、目が覚めてから一番くらいの大きな声で叫ぶ。
グイグイと手を引っ張って痛みから逃れようとすると、案外素直に手を離してくれて、彼は近くの椅子にストンと座った。
「いたいよ!」
未だヒリヒリと痛む頬を擦りながら、座る勝己くんに抗議をする。
彼はぷいと顔を背けて、カバンからリンゴを取り出しずいとこちらへ出した。
「え…うん。…え?」
「食うかって聞いてんだろ」
「聞いてない…けど、く、食う!」
いつもと違う変な勝己くんに困惑しながら、私は食う!とまた大きな声を出した。
しゃりしゃり、
とリンゴを剥く音が部屋に響く。
そんな優しい音に、私の口も緩くなって。
目の端のそれも少しだけ無視して。
いろんな言葉を投げかけた。
「勝己くん…。みんなは、元気?」
「…変わらずアホだわ。」
「昨日先生も来てね、全寮制になるって聞いたよ。」
「あぁ。そういやひよこ、」
「勝己くん、そのりんご…」
「あぁ?」
そこまで会話を続けて、私は堪えられなくなって殺していた笑いを爆発させる。
「くっ…ふふっ…」
「…んだよ!?」
「うさぎぃ!りんごがうさぎだぁ!勝己くんがうさぎぃ!ふふっ…あははは!」
「んなっ」
勝己くんのごっつい手の中に収まったそのかわいいかわいいうさぎりんごをみて、私の口角は自然と上に上がっていく。
「あぁ゛!?文句あるかよ!もうやんねぇわ!!」
「ご、ごめんなさい!すっごくかわいい!すっごくすっごく…嬉しい!」
嬉しくて、笑いすぎて、それでちょっぴり、涙が出た。
「あれ、な、なんだっけ?」
痙攣する腹筋にムチを打ち、勝己くんの顔を見る。
彼は怒った顔を元に戻して、それから顎で机の上のアレを指して言った。
「その手紙、なんだよ。」