第32章 夢を諦める方法
『_よこ、ひよこ。なにしてるの?』
『おとうさん……私ね、まだ迷ってるの……。』
『ひよこ。多分、大丈夫だよ。』
『でも、まだ…わかんなくって……。』
『大丈夫。だからさ、目を開いてみて。』
。・:❁°゜:。* ゜.
ゆっくりと瞼を持ち上げる。
その先にあったのは、真っ白な天井で。
視界の中には白しかない。
ぱちぱちと目を瞬かせても、やっぱり景色は変わらなくて。
それが、怖くて。
色が無いのが怖くって、
手を動かそうとしたとき、手が、暖かいなにかに包まれていることに気がついた。
「ひよこ…ちゃん…!!ひよこちゃん!」
「い……ず…」
その聞き慣れた声を、懐かしく大好きなその声を、私は心地よく受け止め目を閉じる。
目覚めたばかりの動かない口は、結構どうでも良かった。
「先生っ…!看護師さん!呼んでこなきゃ!」
ぱちともう一度目を開いて彼を見ると、涙目でワタワタと病室を走り回っている。
「なん…れ……ないて…る…の?」
その小さな呟きは彼の耳には届かなかったみたいで、彼は病室を飛び出していってしまった。
頭も足も、腕も口も、全部全部、重たい。
動かしたくてもあんましちゃんと動かせないなぁ。
それでも布団はふわふわで。
こんな感覚、久しぶりな気がして。
少しだけ、心地よかった。
その心地よさを堪能していると、血相を変えた看護師さんと病院の先生が駆け込んでくる。その後に出久くんも来た。
先生達の慌てた会話は全く頭に入らなくって、私は看護師さんに起こしてもらった体勢のまんま、ぼーっと先生の鼻の頭を見続けた。
「確認のため、もうちょっとだけ入院ね。リハビリもしなきゃだしなぁ。」
先生の、ホッとしたような慌てたような顔。
私はその顔を確認して、それからこくんと頷いた。
リハビリ…って…大変そうだなぁ。
なんて適当なことを思いながら、ぼーっと窓の外を見る。
さわさわと揺れる木の葉の緑。
色んなものに反射する陽の光。
赤に変わっていく空。
全部がキラキラ輝いて。
なんだかずっとこんな世界見てなかったなぁなんて、ちょっと嬉しくなった。