第32章 夢を諦める方法
Side 緑谷出久
いろんなことがありすぎて、僕の脳みそはパンクの一歩手前にあった。
いや、多分もうずっと前からパンクしてたと思う。
オールマイトから個性を受け継いだ瞬間から、多分もうパンクしてたよ。
オールマイトの引退で世間は驚天動地の大騒ぎ。
バラエティ番組を中止してすべての番組がニュースになるほどのさわぎの中、ひよこちゃんは病院でただ眠り続けた。
病院の先生いわく、怪我や貧血はもう大丈夫だそうだ。
目覚めるかどうかは、彼女の精神次第だと。
此処へ戻りたいと彼女がどれだけ強く思えるのか、それが重要だとか。
彼女が本当にそう思えるかどうか、僕は不安で。
あの時助けてくれたのは切島くんで、僕は何も出来なかった。
その懺悔のように、僕は毎日病院へ通った。
クラスの皆には知らされていなかった病院の場所を、僕はひよこちゃんちのおばさんに教えて貰って知っていた。
“ズル”かもしれない、とどこかで思いながら、僕はそんな懺悔を続けた。
病院へはかっちゃんも来ていて、廊下や病室で毎日出会った。
かっちゃんも同じ気持ちだったのか、とどこか安心して。
病院に来ても、することはひよこちゃんの寝顔を見るだけ。
健やかな寝息を立てて、ふわふわの髪を枕に敷いている。そのあどけない表情には一点の曇りもない。
まるで、なんの事件もなかったかのような、いつもの寝顔で。
そう現実を忘れそうになって、それから、そこかしこと巻かれた包帯のせいではっと気がつく。
彼女の事件はまだ解決していないんだ。
と。
彼女の中には、残っているんだ。
あの、敵の個性が。
彼女が目覚めれば、僕のとは全く違う種類の苦しみが彼女を襲うんだ。
そう思うと苦しくなって、僕は眠るひよこちゃんの手を、いっそう強く握った。
「…みんな、待ってるよ…。ひよこちゃんのこと……。はやく、もどってきてよ…。」
毎日そうやって、呪文のように唱えて僕は病室をでる。
やることは山ほどあるし、学校の方は全寮制になるっていう家庭訪問があるって聞いたし。
僕の頭はぐるぐるまわって、回っていることに少しだけホッとした。