第31章 A world without you
「ウルシ鎖牢!!」
シンリンカムイは、人気急上昇中の若手実力派。
個性は樹木。
指から伸ばす根で敵を絡めとる。
SWOOOOOOOSH!!
カムイはいつものようにその根で彼女を捕らえようとする。
しかし、そうはいかなかった。
伸びてきた根を、彼女はひょいと身を翻して避けたのだ。
そんな彼女にカムイは目を見開く。
何故だ!?
彼女は確か、体育祭では予選敗退のはず…。
その反射神経は一体…?
彼が戸惑っていると、今度はエッジショットが身体を薄く細くする。
彼の個性は紙肢。
身体を薄く細く引き伸ばすことが出来る。
ZING!!
彼は先ほど敵連合の幹部の意識を失わせたあの“忍法”を繰り出す。
音速をも超えるそれを、彼女はスルリと躱し彼を睨みつける。
エッジショットの目にも少しだけ焦りが浮かんだ。
「ひとりではダメだっ!!一気に畳み掛ける!!」
そんな古豪の声に、2人は些かの不安を抱えたままこくりと頷く。
SWOOOOOOOSH!!
ZING!!
FAKOOM!!
3人は同時に動き出し、少女に向かって個性を使った。
彼女は、反って、飛んで、完璧な着地を決めた。
「んぁっ……!」
drip…drip…
そんな彼女の腕から、血が、ぽたぽたと垂れる。
完璧に躱せていたわけではないようで、彼女は血の滴る腕を掴んでいた。
ギロり、と光の無い瞳でヒーローを睨みつけた彼女は、地を一蹴り。シンリンカムイへと飛びかかる。
武器が無い以上、こちらが有利だ。
なんていうシンリンカムイの慢心は一瞬にして崩れた。
眼のすぐ前を通り抜けていった赤くギラギラと光ったなにかのせいで。
顔に風が当たるほど近くまで来たそれは、確かに刃物であった。
すんでのところで避けたカムイは、もう一度目を見開いた。
先程まで何も持っていなかった彼女が、大きな大きな剣を持っていたのだから。
星の瞬きをも反射するそれは、“血”のようにギラギラと不気味に、美しく見えた。