第31章 A world without you
(…ま、さか…!!)
オールマイトは自身の頬に汗が気味悪くつたうのを感じた。
その光景は、まるで十数年前のあの日の、残酷なあの事件の再現だ。
喘ぐような浅い呼吸をしながら、少女はヒーローらを睨みつけている。
先ほどの死柄木のような光はなくて、ただただ濁った、深い海の底のような瞳で。
そんな瞳から目を逸らせずに思考を回していたオールマイトに、師は声を投げる。
「俊典!!考えてる暇ないぞ!!」
「グラン…トリノ!」
「あっちに奴がいるかもしれないんだろう!!行け!」
奴。
そうだ、最悪の、最低の、あいつが。
オールマイトにしか、きっと倒せない相手が。
誰かの命を、奪っているかもしれないのだ。
「しかしっ」
「行け!!“オールマイト”!!!」
「っ…!」
オールマイトは、一瞬目を閉じ、それからもう一度彼女を見つめた。
「…後は、任せるぞ!!」
“ヒーロー”の言葉を発すると、オールマイトは脚に力を込めて飛び上がった。
「すまない、安藤少女。」
そう、一言だけもらして。
残されたヒーロー達は、脳無、それからその少女に向かい合う。
一度だけ会話を交わしたことのあるグラントリノは、せめてとその名を呼ぶ。
「安藤!!」
「うっ…うぁ…ぁあ゛ああああああああ!!」
自身の声帯など気にもしていないその絶叫の波に、グラントリノは少しだけたじろぐ。
(こいつァもう、マトモじゃねぇぞ…)
「カムイ!エッジショット!!捕獲しろ!!」
保護ではなく、“捕獲”。
その言葉に2人のヒーローはこくりと頷き返事をした。
「“できるだけ”怪我はさせるな!」