第31章 A world without you
Side 切島鋭児郎
逸る心を抑えて、俺らはゆっくりと歩を進めていた。
多分このスピードは特別ゆっくりな訳でもないと思う。周りのサラリーマンのスピードに合わせている。
それでも今は、すごく遅く感じて。
走り出したい。
とまで思った。
変装は前と同じで、チンピラ2人とバーテンダー。それから爆豪は、メガネをかけてハチニイのズラをつけている。多分バーテンダーを意識したやつ。
正直、まじで誰かわかんねぇ。
なんだろう、この百鬼夜行は。
そう思うのは多分、俺らだけなのだ。人はそこまで他人に興味を持つことはないから。
あいつは、俺らのこと分かるかな。
爆豪なんて特に。
なんてまた同じことを考える。
心は泡立って泡立って、とどまる所を知らない。
通信機の向こうから時折聞こえてくる、『落ち着いて。多分へーきだから。』なんていう優の声も、ちょっぴり震えている。
緊張、しないわけが無い。
そんな緊張のせいで足も勝手に速くなるわけで。
その度優に怒られる。
きっと。
2時間後、いや、1時間後にはきっと、あいつは戻ってきているはずだ。
ちゃんと一緒に笑えているはずだ。
ううん、きっと泣き虫だから泣いている。
そんなことを想像してみても、不安は消えなかった。
そんな時間に、とびたい。
今のこの不安を、緊張を、スキップ出来たなら。
そんなことを考えていれば、また通信機の先から震えた声が聞こえてくるのだ。
『落ち着いて。絶対…大丈夫だから。』
と。