第30章 春と嘯いて
「ふぅ…。」
件の3人が部屋から出ていくと、優はため息を漏らした。
今日…3人もうちに来るなんて思ってもみなかった。
パソコンの前に座り作戦の最終確認をしながらぽーっと今日のことを振り返る。
本当は今日のうちにひとりで乗り込んで奪還するつもりだった。
優はこれでも天才詐欺師。
よっぽどの事がなければ、ひとりで乗り込んで奪還出来る。
そんな時に、爆豪がきたのだ。
『ひよこの場所、お前わかるよな。教えろ。』
その目は、見たことないほど真剣で、深刻で。
それを否定することなど、できなかった。
きっと、自身で動くまで、彼は納得しない。
多分、テコでも動かない。
優の知っている爆豪勝己は、そういう人間だったから。
「はぁあ…。」
パソコンのモニターとにらめっこを続けていると、自然とため息が漏れた。
(足、引っ張りたくも…ないし)
いつもはひとりでやっていたことなのに、今回は他の人に指示を出す係。不安がないと言ったら嘘になる。
作戦決行を明日にしたのには、ちゃんと理由があるのだ。
【明日、ヒーロー達が総力をあげて解決に向かう。】
そんな情報を、優はハッキングで傍受していた。
ヒーローが向かうより少し前に準備させ、ヒーローが来たということを伝えて計画を中止させる。
そうすれば3人が巻き込まれることもないだろうと判断した。
巻き込まれてしまえば、雄英高校を除籍になることだって考えられる。
そんなの、絶対ダメだ。
爆豪は絶対に凄いヒーローになれる人だし、緑谷がどれだけの努力をしてあのヒーロー科に入ったかを優は知っている。切島の熱い意志だって知った。
それに、ひよこがそれで救かってもまた責任を感じるに決まってる。
除籍なんてこと。それだけは絶対に避ける。
それが優に課せられた使命だった。
そんな使命を果たすため、優にはもうひとつやることがあった。
「…よし。」
何かを決意したように、ケータイを手に取り番号を入力する。
かけたことないその番号。
あったこともないその相手に、優は電話をかけた。
「もしもし。はじめまして、桜木優というものです。少しお願いがあるんです_____」
準備を続ける優の目はその晩、まっすぐ光り続けていた。