第30章 春と嘯いて
Side hero
「今回の計画は、潜入してひよこを連れ戻す。それだけだからね。ひとりでも変なことしたら計画は破綻する。わかった?」
「…うん。わかった。」
「バカにすんな。」
優は中1とは思えぬ口ぶりで計画の概要をスラスラと告げる。
そんな雰囲気にすっかり慣れた切島は、「おうっ!」と元気よく返事をした。
最初はむっつりと優を見ていたが、元来素直な切島は、優の力を素直に認め、もうすっかり馴染んでしまっていた。
「いやぁ、それでもすげぇな!優の個性!こんなすぐ居場所分かって計画もたてれるんだぜ!?詐欺師かっけぇな!」
「こっ…声でかいし…よくそんなこと…恥ずかしげもなく…」
「おっ!照れてんのか!!」
「うわっ!」
すっかり馴染んだ切島は、優の頭を力いっぱいガシガシと撫でる。
切島は優を、すっかり気に入ったようだった。
優の方は……よくわからないが。
「おい。」
「ん?」
そんなふうにわいわいとしていれば、今度は爆豪が声をかける。
「優てめぇは参加しねぇんか?」
「…僕は参加しない。僕の専門は対人。人を騙すことだから。今回、人に出会ったりしたら失敗でしょ?それに隠密行動なら人数は少ないほうがいいよ。」
「ふん。」
優と爆豪は、意外にも信頼し合っていた。
爆豪が優を頼ったのは、優の個性を認め、信用しているから。
優の方も、爆豪の頭の回転の良さや運動能力を信用していた。
「優くん。本当にありがとう。…絶対、助け出す。」
「出久くん、すぐ周り見えなくなるからさ。多分この中で一番心配。」
「えぇっ!!」
優は今度は緑谷に声をかける。
その声は、信頼しているからこそ厳しめに。
「出久くんが一番向こう見ずで一番心配なの。わかった?」
「は…はい。」
そんな年下の言葉に、緑谷はたじたじ。
大人しく返事をした。
「じゃあ作戦決行は明日の17時。僕は行かないけど、駅に集合。それまでに各々準備すること。」
「え、今日じゃなくて?」
「なに?救けたくないの?」
「す、すみませんでした…。」
そして、それぞれの思いを胸に、静かに進み始める。