第30章 春と嘯いて
びっくりした。
ひよこちゃんの性別は?って聞かれれば、もちろん女の子って答えるし、『女の子なんだから守ってあげなさいよ』って、お母さんにも言われてた。
でも、恋愛の対象の“女の子”としては、ちゃんと考えたことなかった。
だから僕は今こんなにびっくりして、恥ずかしくなったのかもしれない。
全然予想してなかった言葉が出てきて。
僕のそんな不用意な言葉で、そんな熱い言葉がでてくるなんて、思ってもみなくて。
少しだけ、後悔した。
ずっと見ないでいたものだから。
「ただ…ひよこちゃんは……。家族みたいに…大切…で……」
言葉がスラスラ出てこない。
あんなにも真剣な切島くんに気後れしたのかな…。
胸が詰まって、ちゃんと言葉が、出てこない。
それで、ひよこちゃんのいつもの赤い顔が思い浮かんで。
「本当に……大切で……」
あれ…?
ひよこちゃんの…好きな人って……。
「…かけがえがなくて……」
もしかして……
「それで……」
頭に浮かんだその可能性を、僕は必死に消す。
「ただ、それだけだよ。」
顔を上げて切島くんを見た。
頬が赤いのは、この気候のせいにしようって思って。
そう言い訳しても目は、どうしても見れなかった。
「そ…うか。そうなんだな…。」
「あ…うん。」
その切なそうな、ホッとしたような、そんな顔を見て、さっきの可能性が少しずつ復活し、色濃くなっていく。
まさか、そんな。
そんなわけ、ないだろ。
なに考えてんだ僕は…。今はこんなこと考えてる場合じゃないだろ…!!今は、ひよこちゃんを助け出す作戦会議を…
そこまで考えて、太ももに当たるビニール袋の温度が上がっていたのに気がついた。
「あっ!!アイス!!と、溶ける!!」
「えっ!!」
「僕、作戦会議に戻ならきゃ!!」
「じゃあ俺も連れてってくれ!!」
「……う、うん。」
そうやって切島くんに返事を返して、僕はひよこちゃんちへと駆け出す。
ひよこちゃんと初めて出会ったのは、お母さんと一緒に挨拶に行った時で、ちゃんと友達になったのは、かっちゃんにボコボコにやられちゃった時。
ひよこちゃんのあの時の顔を思い出して、また頬が熱くなる。
だってあの時、今の僕みたいに頬が赤かった。