第30章 春と嘯いて
Side 緑谷出久
優くんの個性って、凄い。
詐欺師……って確かに世間的には敵っぽい個性だし、敵向きの個性だと思うけど、それでもこうやってあの鋭い頭をこうやって使うことも出来るんだ。便利で、カッコイイ。
ひよこちゃんはそれに気づいて助けてあげたのかな。
…きっと違うんだろうな。
そうな風に、いつもの様に、ブツブツと頭の中で思考を巡らしながら、僕はコンビニから、アイスやお菓子、ジュースの入った袋を持って走っていた。
優くんに、『作戦会議には食料と飲み物が必要だ』って言われて、使いっ走りにされた。もちろんかっちゃんが行くわけなくて、仕方なく僕が。
炎天下のコンクリートをただひたすらに走り、もうすぐで着くというとき、昨日ぶりのあの赤に気がついたってわけで。
それで、どうして救けたいのかって聞いたんだ。
そしたら、彼は……。
彼は恥ずかしげもなくそう言って…。
「へ…っ!?あっ…へぇ!あっ…そ、そっ、そう、なんだ!!ご、ごごめん!な、なんか…ご、ごめん…!」
なぜだか僕は、吃ってしまった。
こんなところでこんな話してる時でも、ないと思うんだけど。
『安藤が、好きだから。』
彼の真剣なその一言で、僕は全身の血が沸騰したくらい熱くなった。夏だから、炎天下だからって、多分そういうことじゃない。
なんで僕が赤くなるんだ?
赤い顔を必死に隠そうと腕を顔の前でブンブンと振る。
熱の中に、少しだけもやも生まれて。
「あっ…えっと、そ、そういう…関係…な…なの?」
「違う。振られた。好きな人がいるからって。」
「へっ…へぇー!!あっ、そ、そうなんだぁ…そうなんだね…!」
もやは、“好きな人”という言葉にもう少しだけ増える。
僕、ひよこちゃんに恋の相談、されたことない。
切島くんは、しってるのに。
もやり。
「……み、緑谷も、安藤のこと好きなのか?」
「へぇ!?ちっ、ちちち、違うよ!!」
切島くんのその一言に、もう一度頬が紅潮をはじめる。
「ひよこちゃんのことは、そういうのじゃなくて!!ただ…」
ただ
その先の言葉がなかなか見つからなくて。
僕は、切島くんの目から逃げるように下を向いた。