第30章 春と嘯いて
この間あいつに連れていってもらったあの家に。
あの綺麗で新しい、爆豪の家。
俺はその新しい家の前で、少しだけたじろいでいた。
なんて、言えばいい?
『一緒に安藤助けに行こうぜ!』
…なんて言うか?
仮にもあいつはついこの間まで敵のとこに居たんだぞ。
いくらあいつが強いとしても、そんな無神経なこと言えねぇよ。
じゃあなんて言えば…。
そんなふうにインターフォンとにらめっこをしていた時だった。
タッタッタッタッ
と後ろを誰かが走って通り過ぎていくのを風で感じた。
「あれ?切島くん?」
その風のあと、よく知った声が耳に響く。
「そんなところで何してるの?」
インターフォンとのにらめっこに敗けた俺はグルンと後ろを向く。そこに居たのは、大きなコンビニの袋を持った、
「み、緑谷!?」
昨日以来の、緑谷がそこに居た。
「切島くんこそ!……なにしてるの?」
「あ、や、これは…」
この不審者スタイルを突っ込まれた俺は少しだけ吃る。
そしてここに来た意味を思い出し、はっきりと緑谷に向けて発した。
「俺……話聞いてさ、いてもたってもいられなくて…。安藤の、そばにいてやりたいって、助けたいって思ってさ……。なぁ、緑谷。」
そこで俺は一息ついて、緑谷を見上げて、それから一息に言った。
「助けに行かないか…?」
そう言って、俺はあの日の様に手を伸ばす。
真っ直ぐに、まっすぐに。
震えないように。
その手を見た緑谷は眉にぐっと力を入れ、その手を見つめた。
「僕も、当然そのつもりでいる。」
まっすぐ、力強い目は、今度は俺の顔を捉えた。
「…今、計画立ててるところ。」
「本当か!?じゃあ俺も!」
「うーん……うちの作戦参謀ちょっと気難しくてさ。ちょっと質問していい?」
作戦参謀…となんだか聞き慣れない言葉が飛び出し、俺は目を瞬かせた。
そんな俺を気にもとめず、緑谷は続けた。
「…切島君はさ、なんで救けたいの?」
どこまでも真っ直ぐな瞳に見られて、言葉は少しだけ引っ込む。
そして、唾をひとつ飲み込んでから、溜めた言葉を吐き出した。
溜めたと言っても、一言だけ。
「安藤が、好きだから。」
その一言に緑谷の目は、信じられないほど大きくなるのを見た。