第29章 〈番外編〉青い心は揺れ動く。
「くくっ、あはは!安藤さん可愛い!」
「ん」
眉間のシワをさすっていると、さっきの一部始終を見ていた拳藤さんはからからと笑った。
「物間がちょっかい出しちゃうのも分かるかも。」
「え…やだよー!」
「ごめんごめん!」
ひよこちゃんはムッとした顔でをして拳藤さんの方を向いた。
たしか隣のクラスの物間くんに、ひよこちゃんってよくちょっかい出されてたなぁ。
愛されてるなぁ、なんて思って。
もう一回…頬をぐにぐにと触った。
ダメだ…あかんあかん。
性格までこんなんなったら……どんどんどんどん、差がついてしまう。
ていうかさっきから、“差”って…!
私何考えてんのやろう…。
私……なんでこんなにザワザワすんのかな…。
あかん…あかんよぉ……。
私はザワザワに耐えきれず、枕にぼふんと顔を埋めた。
「じゃあ物間くんはどう?イケメンだよね!」
もやもや心そのままに、枕からムクリと顔を上げ、その会話に参加する。
物間くん……。
頭の中に思い浮かべてみても、なんか変な人やなぁって感じしかない。なんかいつも変な感じに笑ってるし、なんか…変やし……怖いし。
「物間はなー…」
「ん」
「物間だなー……」
「ん」
B組の柳さんの言葉に、小大さんが頷く。
物間くんは物間くんで、案外受け入れられてるみたいだった。
「イケメンだけど、心があれだから残念だね!!」
透ちゃんは、あっけらかんとそう言った。
「じゃあ、イケメンと言えば轟は?」
次は、ゴロンと寝転がった三奈ちゃんがみんなに話題提供。
轟くんのお話になった。
轟くんか…。
むん…と真剣に考える。
確かに、なんのマイナスポイントもないイケメンかも。
うん、轟くんイケメンだよ。
と、脳内で轟くんをあっぱれ三唱。
「あー、あのエンデヴァーの。」
その拳藤さんのひとことで、そのアッパレはすっと姿を消した。
とてもじゃないけどうまくやっていける気がしない。
「……ないな」
「息子の彼女に厳しそう…。」
エンデヴァーを想像すると、彼は脳内でとんでもない威圧感を発していた。
…そらむりや…。
少しキラキラしはじめていたみんなの顔も、すっと元の温度へ戻っていた。
ひよこちゃんも、少しだけ冷や汗を流していた。