第28章 君に伝えたいこと
「…ガキかよ…。いや…犬……?…チワワめ。」
「んぅぁっ、」
私は必死に噛みつき、ピラニアばりにやってやろうと顎に力を入れた。
しかし、彼は片方の手で私の喉元をぐっとつかむ。
思わず顎の力を緩めてしまった。
指を口から出すのかと思ったけれど、彼は逆の行動をする。
指を口内の深くにぐいっとつっこまれた。
そんな事されたら嘔吐いてしまう。
視界は生理的な涙で歪む。
口の中の指は知らぬまに2本になっていて、ぐいぐいとつっこまれた。
「んぅぇっ」
「お前にはやってもらわないといけないことがあんだからさぁ。」
口の中の指が、ぐっと力が強くなってもう一度嘔吐いた。
降参、降参だと死柄木さんの胸を叩く。
私の口から出ていった指はどろっと液体がついていて、私のかと思うと恥ずかしいやら気持ち悪いやらで。
自由になっていた右手はまたぐいっと掴まれ、両手を掴まれて身動きが取れない。
必死に身をよじっていると、死柄木さんが口を開く。
「帰りたいっていっても、お前には帰る場所なんてあるのかよ。」
体が、かたまった。
「爆豪を助けてヒーロー気分か?」
「ち、ちがっ」
「いくらなにやっても、その“個性”は変わんないだろ。あぁ、あいつらももうそれ知ってるかもな。帰っても怖がられるだけかもな。」
両手首にギリギリと死柄木さんの爪がくい込んでいく。
どうして、なにも言い返せないんだろう。
本当に、みんなは…私に帰ってきて欲しいって思っているのかな。
こんな危険なやつ、必要とされてる?
私が帰って、みんなが私のせいで傷ついてしまったらどうしよう。
掴んだ腕を引っ張りあげて、彼はニヤリとする。
「だから言ってんだろ。お前の居場所はここにしかない。……お前は俺と同じなんだよ。」
腕から、力が抜けた。
力が抜けた指に、死柄木さんが噛み付く。
歯を立てて、犬歯で。
びりっと鋭い痛みが走る。
「いたいっ……」
口内は暖かくて、この人も“人間”なんだって思った。
指に、さっき私がしたみたいな痕が残った。
痛みも、きっと、これくらいだったんだ。
「…ごめんなさい。」
自然とこぼれたその言葉は、自分でも誰に向けてなのかも分からなかった。