第28章 君に伝えたいこと
Side villain
あの子がいなくなってから彼女はくたりと座り込み、ただ下を向いて目を閉じていた。
「安藤、」
ひょろりと背の高い彼は、片手で彼女の顎をぐいと持ち上げる。
ちゃんと、触れている指は4本だけ。
休息を求めていた彼女は、その手の先の彼の顔をぎっと睨みつける。
「何でも言うこと聞くって言ったな。」
ニヤリと、意地悪な笑顔で彼女を見下ろす。
ちらと見えるその瞳はぎらぎらと不気味で彼女は一瞬身震いした。
確かにそうだった。
『彼を帰してくれれば、私はどうなってもいい。』
確かに彼女はそう言った。
大切なあの子をここから遠ざけるために、仕方の無いことだったから。
そういう、嘘だった。
「言ったけど…でも…」
「あ?なんだよ。」
怖かった。
嘘が、どんな代償を払うのか。
嘘つきではない彼女は知らなかった。
何をされるか、何をさせられるのか分からなかった。でもちゃんと、キッとその顔を睨みつけ、なんとか威厳を保とうとする。
へにゃへにゃと怖がっていては、きっともっと事態は悪化する……なんて、確証もな考えのまま彼女は強いふりを続けた。
「言いました…けど、私は、帰ります…!」
「おい、それじゃあ取引が成立しないだろ。」
顎に添えた指の力がグッと強くなった。
爪が喉に食い込み、彼女は顔を歪める。
「ここに居るって…契約だろうが。」
不気味な赤い目に睨みつけられて、恐怖で泣きそうな顔をしながら、それでも彼女は嘘をつづけた。
「……私、嘘つきですから。」
そんな、下手くそな嘘を。