第27章 once upon a time
真っ黒で虚ろな目は、いつもの暖かい優しい目にはどう頑張っても見えなくて。
優しく揺れていたサラサラの猫っ毛は、乱れて乱れてぐちゃぐちゃで。
オールマイトに拘束されてなお虚ろに抗い続けている。
誰が見たってすぐ、コイツはやばい、コイツは“敵”だって分かる。
信じたくなくて、頭が真っ白になって、体が固まった。
目が痛くて、
目を瞑りたくなって。
「君は…イレイザーヘッドだね!ここは私に任せて、君は奥へ!!」
グラグラとした頭は、その声で引き戻される。
そうだ、そうだひよこちゃんは。
覚束無い足を引きずって、俺は奥の扉を開くとそこには。
血溜まりの中で呻くひなたさんと、
その赤の中で立ち尽くした、ひよこちゃんがいた。
「ひよこ…ひよこの……こせい……?…おかあ…さん……?おとう、さんは……?」
ひよこちゃんがこちらを向く。
右目からは不穏な闇が溢れ出ていて、俺は考える間もなく個性を使った。
闇は余韻を残しながらも消えて、ひよこちゃんは、それと同時に糸がプツンと切れたように意識を失った。
慌ててひよこちゃんを抱きとめる。
ぐったりとした体はまだ軽くて。
ひよこちゃんはまだこんなに小さいのかと、知った。
抱く力は、自然と強くなった。
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ひよこちゃんの個性は、人の心を壊すもの。
ひよこちゃんの右目は、そういうものだそうだ。
その個性は、様々なことを守るために秘密裏に扱われることとなった。
そのうち、ひよこちゃんとひなたさんは、何処かへ引っ越していった。
最後に目にしたひよこちゃんは、右目に大きな眼帯をつけていた。ごわごわと慣れないであろうそれに、ひよこちゃんは抵抗しようとはしていなかった。
このニュースは広く報じられ、ヒーローカインドネスはヒーローとしては再起不能となった。
ヒーローがいきなり敵になったことにより、社会は恐怖に煽られた。しかし、その恐怖も、すべてヒーローカインドネスの過失にすることにより風化していった。
ヒーローカインドネスは、敵に堕ちた最低なヒーロー。
あの最高に優しいヒーローを覚えている人は、もう居ないのだ。