第27章 once upon a time
ぶわり
と何故だか鳥肌が立って。
非番で家にいた俺は、その小さな端末から流れ出る音に飛び上がった。
いつもと同じ呼び出し音のはずなのに、その音は何故だかすごく不穏な気がして、携帯を手に取った。
画面に表示されていたのは、普さんの名前。
何故だか震えた手を抑え、一度ためらってからその呼び出しに応答した。
最初に聞こえたのは、誰かの息遣い。
「普さん?もしもし、どうしたんですか…?」
なにかがわれる音や、衣擦れの音で、この電話は穏やかでないものだということは確実になった。
「普さんっ!!今どこですか!?」
普通の救助要請なら事務所から連絡が来たりするはず。
これはイレギュラーなものだと冷や汗が垂れた。
『相澤くんっ!家!家に居るの!!』
その声は普さんのものではなく、ひなたさんの声。
いつもの優しい声とは打って変わって緊迫した、震えている声。
『相澤くんお願い!!ひよこが___』
「ひよこちゃんが、なんですか!?」
ぶつん
電話はそこで切れた。
冷や汗は脳天からぶわと溢れ出て、顔は多分真っ青だ。
よたりと覚束無い足にムチを打ち、俺は走り出した。
なにか、とんでもないことが起きている。
それだけは分かった。
何度も何度も通った道を、唯ひたすら走る。
ヒーローも人間で、
息が切れ、足には疲労が貯まるものだ。
それでもそんなの、その時は分からなかった。
普さんの家が見えた。
暖かい環のあの家がその日はなんでか恐ろしげで。
普さんの家には既に、沢山のパトカーが止まっており、ヒーローも来ているようだった。
「敵だって!しかも、なんかヒーローがいきなり敵になったらしいぜ」
野次馬の声が俺の鼓膜を殴る。
同時に脳もグラグラ揺れて。
足は、身体は、人混みを掻き分けて勝手に進む。
「なにそれどういうこと!?」
「ヒーロー誰来てんの!?」
「オールマイトだって!!敵はもう捕まえたんだけどいろいろヤバいっぽいって!」
野次馬の声を、耳が自然と拾っていく。
自分はヒーローであると伝え、急いで家に入る。
そうして見えたのは
No.1ヒーローオールマイトと、
敵……普さんの姿だった。