第27章 once upon a time
「しょっ……イレイザーくん、お疲れ様!」
「はい。……仕事終わったんだから好きに呼んでくださいよ。」
「そっか。じゃあ消太くんだね。」
仕事からの帰り道。
普さんとりとめのない話をしてゆっくりと、できるだけゆっくりと進む。
「…ねぇ消太くん。君って優秀だからさ……もっと凄いところ行けばもっと凄い人になれると思う…な。丸田さんも言ってた。例えば…雄英の先生っ!…とかって。消太くんは頭いいもんねぇ。似合うと思うな。」
普さんは、教員免許とかいるのかなぁと考え込んでいる。
俺を気遣い、真剣に。
普さんのその言葉には何も返さず、俺はただ聞こえないふりをして歩き続けた。
普さんの横を。
足元を見れば足が揃っているのが見えて、なぜだか少しこそばゆくなってわざと足並みを崩した。
普さんは仮にも上司。彼を無視した俺は、気になって普さんの顔を覗き込んだ。
彼はなにも気にしていないように、葉桜を見上げていた。
察してくれたのかもしれない。
彼はこういう時ばかり、人に気をかけてしまうから。
普さんの個性は、『柔和』
人の心をなんとなぁく読み、人の心を柔らかくする。誰もが彼の前では心を開く……んだって。
こんな個性存在すんのかって最初は驚いた。でもそれで活躍してんだから、この人本当は凄い人なのかともう一度驚いた。
羨望と絶望、それから____
「…ひよこの遊び相手、いつもごめんね。ありがとう。すっかり消太くんに懐いちゃって、なんか妬いちゃうなぁ。」
優しい笑顔は、ちぎれた言葉をもう一度紡いでいく。
その顔を覗き込めば、愛娘を思い浮かべているであろう溶けるような笑顔で、
「べつに。ひよこちゃん、すごく聞き分けいいですから。」
「えーほんとー?嬉しいなぁ。照れちゃうよ」
「あなたの事じゃないですし。」
暖かく優しい風に、俺の頬は少しだけ緩んで。
緩んだ頬に気がついて。
気づかれないように、
バレないように。
緩んだ頬を隠した。
なし崩し的に連れて行かれた普さんの家にも、今では常連、もはや行くの当たり前だ。
とっても人見知りなひよこちゃんも、今では相澤さん相澤さんと喜んでくれる。
彼と知り合って、暖かくて幸せな居場所をいくつも知った。