第26章 ヒーローの顔を見る。
Side hero
新幹線は長野の山の中を真っ直ぐに、定規でひいた線の上を走るように進んでいく。
旅行から帰る人、出張から帰る人、実家から帰る人、家を出て一人暮らしをする人。
幸せな人も不幸な人も、嬉しい人も悲しい人も、その細長い箱で運ばれていく。
並々ならぬ決意を抱えた少年少女も乗っていた。
大切な人を、大切な友人を、助けるために乗っていた。
その緊張感も、ちょっとやそっとのものではなく、サラリーマンの電話の声も、思い出話に花を咲かせる声も、彼らの耳には届かなかった。
「引き返すならまだ間に合うぞ。」
緊張をしていても腹は空くようで、もくもくと駅弁を食べていた少年はポツリと言う。
隣でおにぎりを食べていた少年は、即座に返す。
「迷うくらいならそもそも言わねぇ!あいつァ敵のいいようにされていいタマじゃねぇんだ…!……あいつ…だって……」
前者の“あいつ”へは、真っ直ぐ迷いなく。
後者の“あいつ”は、迷いや苦悩を抱えながら。
「僕は……」
そして正面に座っていた、何も食べていない少年は、
「後戻りなんて出来ない。」
思いつめた表情でそう言った。
そんな、冷静ではない彼に厳しい声を浴びせる幼馴染は、いない。
そんな、思いつめている彼の話を親身に聞いて、そばに居てくれるあの子もいない。
彼らに考え直して欲しい人、彼らを監視し守ると決めた人、大切な人を助けようとする人。
そんな彼らは同じ箱に乗り、進んでいく。
箱は山を切り裂き、山は街へと変わっていく。
冷静ではない彼らには、景色など見る余裕はなかった。