第26章 ヒーローの顔を見る。
「ヒーローとはなんだ!正義とはなんだ!この社会は本当に正しいのか!!」
ヒーローとは何だ。
それは、
正義とはなんだ。
そんなの、
頭が上手くまとまらず、言葉がちゃんとまとまらず、それでも心が叫びたがっている。
勝己くんは静かにそれを聞いていた。
頭がいい彼のことだから、きっと何か考えがあるのだろう。
演劇調の言葉は次第に力を増して、何も考えのなかった私は耳を塞いで目を瞑った。
「…違うよ、全部、私が。役立たずだから……。」
そうやって、外部からのアクセスを全部シャットダウンしたあと、そうこぼす。
塞いだ手は何者かに掴まれ、耳から剥がされた。
「お前は居場所を、個性に奪われた。」
そう囁かれ、私は目を見開く。
「そして俺はお前に、その個性にも居場所を与えようとしている。そうだろ。」
見上げれば、不気味な赤い目がこちらを覗き込んでいる。
「ち、ちが……」
頭が真っ白になって、私の全てが否定されたような気がして、私は後ずさりをした。
「はっ!馬鹿かよ。クソがクソたる所以だな。」
後ずさりをした先で、誰かの声がした。
決して優しくはないけれど、それでも聞くと安心する、大切な、大事な声だ。
「こんなクソどもの話真に受けてんじゃねぇよ。」
振り向けば、いつだって同じ、あの凶悪な顔があって。
泡立っていた心は少しずつ静まっていく。
彼のおかげで、静まっていく。
「要するに嫌がらせしてぇから仲間になれってことだろ?どんだけアホでもそんぐらい分かれやクソカスが。」
いつだって自信満々なその顔に、少し焦りが見えた。
いつだってそばにいたから分かるその変化に、私の心はまた違う動きを始める。
「……ありがとう、勝己くん。」
勝己くんだって怖いはず。焦っているはず。
それなら、私ばっかり励まされていてはいけない。
勝己くんは、こんなところにいるべき人間じゃない。
私の方は、分からないけれど。
それでも、勝己くんは、勝己くんだけは確実に、ここに居てはならない人だ。
ポケットを触れば、ずしりと少しだけ重さを感じた。
そうだ。
私にも、出来ることがあるのなら。
私に出来ることならなんだって。
彼のために、出来ることを。
私は、一歩踏み出した。