第26章 ヒーローの顔を見る。
「ひよこちゃん!!こっちこっち!」
「え、ちょっ、ちょっとまって、まってよヒミコちゃん!!」
ヒミコちゃんは私の腕を引き、違う部屋へと連れていこうとしている。
その力は思ったよりも強くて、抗うことができなかった。
でもその、ヒミコちゃんの手は、きっと私を離さないんだろうなと、どうしてか安心してしまう。
私は敵に、捕まった。
その事実を私は案外冷静に受け止めた。
キャパオーバーして、一周まわって冷静になったのかな。分からないけれど、混乱するよりはずっと都合がよかった。
みんなに迷惑をかけることを、居場所を失うことを一番に恐れていた私は、みんなの顔が見えない今、冷静になっているのかもしれない。
今は、敵のせいで居場所を奪われてるんだよって、言い訳できるから。
さっきのツギハギ男の人は後ろでニヤニヤとながめている。
部屋を見渡せばなんだか爬虫類系の男の人もいれば、仮面をつけた人もいる。
その人達全員がヤバい雰囲気を醸し出していて、私の冷や汗は止まらなかった。
「名前呼び嬉しい!ひよこちゃんひよこちゃん!カァイイねぇ!嬉しいな嬉しいな!お友だちだねぇ!」
「ま、まってよ話聞いて!」
ヒミコちゃんは無邪気ではあるけれど、全く話を聞いてくれなかった。私はずるずると引っ張られ扉の前までくる。
「ひよこちゃん、弔くんがご用なんだってっ!お友だちだからまた後で会おうね!また後で遊ぼうね!」
「えっ、ちょっとまってヒミ」
扉をくぐるとヒミコちゃんはこっちには来ず、一人だけその新たな部屋に放り出される。
衝撃的な景色が目に入る。
そこには信じられないものが、信じたくない人が、いた。
「勝己くん!!?なんで!?」
「クソッ……!!」
椅子に縛り付けられて、手枷を付けられて。
私がここにいるという衝撃よりもずっとずっと、何千倍も大きい衝撃が、ガツーンと私を攻撃する。
言葉が自然に悲鳴のようにこぼれて、それから死柄木さん、なんか黒いもやもやの様な人、それから覆面をかぶった人、ガタイのいいサングラスの人が居ることを確認した。
勝己くんがいることで、さっきまで冷静だった私の頭は真っ白になって、ただ勝己くんに駆け寄った。
全力疾走で。
机の横から駆け出した。