第25章 VANISHING POINT、
「あー!!緑谷目ぇ覚めてんじゃん。オハー」
「え?」
歪んだ世界を瞬きでただすと、直後にみんなが入ってきた。
「テレビ見たか!?学校いまマスコミやべーぞ」
「春の時の比じゃねぇ。」
「メロンあるぞ。皆で買ったんだ。」
静かな病室の中に、みんなのガヤガヤとした声が響く。
白い病室の中に色が流れ込んだみたいに、部屋が明るくなった。…気がした。頭の中の虚しさはその色に少しだけ、埋められたみたいだ。
ザワザワガヤガヤと、その音はとても暖かくて目を細めたが、その中にいつも一緒にいた彼女がいないことに、じくっと胸が痛んだ。心臓に太い針が刺さったような痛みだ。
「A組皆で来てくれたの?」
「いや…耳郎くん葉隠くんは敵のガスによって未だ意識が戻っていない。そして八百万くんも頭をひどくやられここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。だから来ているのはその3人を除いた……」
「……15人だよ。」
言いずらそうに、苦しそうに、麗日さんは言った。
単純に引き算をするだけでは、どうしてもその数字にはたどり着かない。
21-4=17
残りの、2人は?
「爆豪と安藤…いねぇからな。」
「ちょっ轟……」
轟くんの冷静な声が、頭でぐらりと反響する。
どろり。
心に虚しさが、悔しさがまた流れ込んできた。
手は包帯のせいでろくに握れない。
悔しさは、舌を噛むことで発散した。
「オールマイトがさ…言ってたんだ。手に届かない場所には救けに行けない……って。だから手の届く範囲は必ず助け出すんだ……」
『いず、く…くん』
最後にひよこちゃんが伸ばした手は、空をきって。
僕は腕も動かなくて。
「ひよこちゃんは手を伸ばしてたのに…。手は…届いたはずなのに…。」
本当に、手を伸ばしてたのはあの時だけか?
ううん、ずっと手を伸ばしてた。
ずっと、助けを求めてた。
あんなにずっと一緒にいたんだから、いつだって手を引けたはずなのに。
かっちゃんだって、絶対…。
「ふたりとも必ず救けなきゃいけなかったのに…。体……動かなかった……。」
『おまえのは一人救けて木偶の坊になるだけ』
悔しくてまた天井が歪む。
「じゃあ、今度は救けよう。」
そんな歪んだ世界で、切島くんの声がまっすぐに響いた。