第25章 VANISHING POINT、
『もう大丈夫!なぜって?』
テレビの先から声がする。
ヒーローの声だった。
みんなのヒーローの声だった。
優しくて強くてカッコイイ声だった。
引っ越してきたばかりの慣れない家に、彼の、最高のヒーローの声が響く。
『私が来た!!』
それを見た私は、血相を変えてリモコンを探した。
最近付け始めた眼帯のせいで全く遠近感がとれず、リモコンをとるのにもひと苦労だった。
その間もヒーローの声は続く。
『悪い敵は、私が退治してやろう!』
吐きそうだ。
リモコンを取るのは無理みたいだ。
吐き気をもよおしながら、私は最終手段をとる。
机の横から全力疾走。
テレビのコンセントをブチりと引っこ抜く。
これでひと安心。
敵をやっつけた時のようにホッとして、それからホッとしている自分にも吐き気がした。
齢4歳で大きな大きな罪を背負った私は、テレビを見るのも辛かった。
テレビに映るヒーローは、憧れではなく、脅威だった。
だってもう、私はきっと、ヒーローの背中を見ることは無いから。
守られる人間じゃなくてきっと、ヒーローの、正面に立つ人。
私はもう敵なんだ。きっと。
守られる権利なんて、どこにも無いんだ。
だから、そう思ってしまうから、私はテレビでヒーローを見るたびに恐怖で泣いた。
あの不敵な笑みで私は背筋が凍った。
強いパンチを見ると、あぁ、私はいつかアレを受けるのかと震えが止まらなかった。
どうすればヒーローの背中が見れるのだろうか。
そんな卑怯な格闘家のようなことを日々考えながら私は生きていた。
**
懐かしい夢を見た。
嫌な嫌な、悪夢だ。
ぱちぱちと目を瞬かせると、当たり前のように顔を液体がつたっていった。
ここは、どこだろう?
認識できない。
「おい。……おいっ!!」
ぼやぼやとする視界の中でいつもの乱暴な声を聞いて、いてもいいところなんだって安心した私は、もう一度目を閉じた。