第24章 涙をとめる方法
どれだけ足を動かそうとしても、私の身体は地に伏せたまま動かなかった。
なぜ?どうして?
怖いの?わかんないよ。
『ほら。』
頭の中で声が響く。
『あなたは口だけで、本当に何にもできないんだ。個性も使えないし、体術もまだまだ。』
『あーあ。また出久くんのお荷物だよ。』
『酸素を吸って、水を飲んで、養分を取り入れて、電気を、ガスを、誰かの居場所を、温もりを使って。それで生み出すのは排泄物と二酸化炭素、それから迷惑だけだね。』
『そんなアナタがヒーローになんか、なれるわけないじゃん。』
『やっぱり、お父さんの夢を壊したような奴はヒーローにはなれないよね。』
『お母さんを、泣かせたような奴は、ヒーローには、なれないよねぇ!』
『アナタが生きていることで得をする人なんて、一人もいないんだよ!!』
頭の中で声が響く。
ぐわんぐわんと反響する。
耳を塞がなきゃ。
塞がなきゃ。
聞きたく、ない。
「うぁ゛ぁぁぁぁあああああああああ!!!あぁああああああ!!!」
喉が、いたい。
どこかから叫び声がする。
でも、出久くんとアノヒトの爆音がその叫び声をかき消していた。
体を動かそうとしても、加勢しようとしても、やっぱり泥のように動かなくて。
夏なのに、風が冷たくて。
風の中には砂が混ざっていて。
風は少し、焦げ臭くて。
私にはただ、自分の不甲斐なさに憤り、地面を殴る。そんなくだらないことしか出来なかった。
ぽろぽろと零れる怒りと言葉を、拾う人は誰ひとりとしていなかった。
「私が……生まれなければ……みんな…しあわせだった……のかな……」
思い浮かぶのはなぜだかお父さんとお母さんの笑顔で。それは、大好きなはずなのに、なぜだかそれが苦しくて。
生まれなければ良かったのにって思った。
首でも吊るのか?線路にでも飛び込もうか?
無理だよ。
だってみんなが、好きだから。
そんな一線を飛び越えることができないのが私で、そんなふうに、私ばっかりがこの世界に執着していた。
朦朧とした世界の中で、出久くんの咆哮が、聞こえた気がした。