第24章 涙をとめる方法
Side緑谷出久
マスキュラーとの戦いを終え、2人の方へ顔を向ける。
洸汰くんは駆けつけてくれたけど、ひよこちゃんは、虚ろな表情でぺたりと座り込んでいた。
洸汰くんを背負い、ぺたりと座り込んだままのひよこちゃんに声をかける。
「ひよこちゃん?」
「…いず、くくん…。……だい、じょうぶ?」
虚ろな表情のまま、ひよこちゃんは静かに返してくれた。
「洸汰くんを連れていかなきゃ。僕はまだ、やらなきゃいけない事があるから。」
「あ……そう、だね。」
ひよこちゃんが顔を上げると、首に跡が見えた。
痛々しい、あいつに首を絞められたときの手形。
見ていて、辛かった。
「ごめんね、もうちょっとはやく救けてあげられてたら」
「ち、ちがう!!…やめて……おねがいだから、もう私を__」
最後に下を向いてポツリと呟いた彼女の言葉は、僕には聞こえなかった。
「え?」
「あ、ちがっ……ほら、はやく洸汰くんを連れていかなきゃ!」
「あ、うん。ひよこちゃんもはやく安全な場所に!」
僕ができる、僕がやらなければならないこと。
それを思い出し、眉に力を入れる。
「先に、行って。私は……」
「うん!じゃあ」
「うん。」
最後、彼女は笑顔を見せてくれた。
冗談みたいな、強がりの笑顔。
わざとらしい笑顔。
それを見て、僕はホッとした。
ホッとしてしまった。
今はそれでいいだなんて、思ってしまったのだ。
ひよこちゃんに背を向けて、僕はフルカウルで森を走った。
彼女の最後に伸ばした手に、その時の僕は気づいていなかった。
彼女がその時、最高に危険な状況にいるということにも。
ひよこちゃんの悲鳴に、その時の僕は気づいてあげられなかったのだ。