第23章 呪われ
「君の両親さ…ひょっとしたら水の“個性”の『ウォーターホース』…?」
「……マンダレイか!?」
洸汰くんは出久くんのその言葉に異常な反応を見せた。
私はどうしていいか分からず、口も何も動かなかった。なにを言ってもこの場を困惑させてしまうだけに思えて、目だけがウロウロと動き回っていた。
「あ、いや、えっと、あ……ごめん!!流れ的に聞いちゃって…情報的にそうかなって……。」
出久くんはカレーを持ったままワタワタと言葉を続ける。
「残念な事件だった。おぼえてる。」
私も、うっすらと覚えている。
確か、テレビでやってて……。
でも、それくらいの記憶だ。それくらいの記憶に、なってしまったんだ。それが恥ずかしくて、悔しかった。
「……うるせえよ。」
洸汰くんは静かに続けた。
その姿はとてもじゃないけど、5歳児には見えなかった。
「あたまイカレてるよ、みーんな……。馬鹿みたいにヒーローとか敵とか言っちゃって殺しあって、“個性”とか言っちゃって…ひけらかしてるからそうなるんだバーカ」
顔が、見れなかった。
5歳児の言うことが、これほど胸に刺さるとは。
だって洸汰くんが言ってること、正論だって、思う。
声は喉のずうっと奥の方に引っ込んで、出てくる気配がなかった。こんなとき、なんて言ってあげればいいのか、なんて言ったら正解なのか、分からなかったから。声が出ても、どうせ彼に同調することしか、言えないと思ったから。
「なんだよ、もう用ないんだったら出てけよ!」
「いや…あの…」
出久くんは、下を向いて言葉を吐き出す。
カレーの湯気は消えかかっていて、また少し涼しい風がピューと吹いた。カレーにたっていた湯気は、もう見えない。
「えー……友だち…僕の友だちがさっ!…親から“個性”が引き継がれなくてね、」
「……は?」
「先天的なもので稀にあるらしいんだけど……でもそいつはヒーローに憧れちゃって、でも今は“個性”がないとヒーローにはなれなくて。そいつさ、しばらくは受け入れられずに、練習してたんだ。」
出久くんの声は静かで優しくて、出久くんの昔の話だぁって、胸がきゅうっと締まる。
最後に出久くんは、『“個性”には、いろいろな考え方がある。』と言った。『否定すると辛くなる』って。
私はその話で、辛くなった。