第23章 呪われ
出久くんが去っていった後も、私はその場に座ったまま動けなかった。
「おいっ!!安藤も帰れよ!」
「え、……うん…。」
言われるがまま、私も腰を上げたが、出久くんの置いていったカレーが目に入って、もう1度腰を下ろした。
「カレー、冷めちゃったね。」
「は?」
「……私もね、個性……モヤモヤする。なかったらいいって…思ったことも結構……。」
体育座りに座り直して、顔を脚に埋める。
さっき冷めてしまった心が、ダラダラと溢れてきている。こんなこと、口にするのは初めてだった。
「個性って…呪いみたいだ。人生を決めちゃう呪いだ。生き方が決められてしまう呪いだ。なりたいものにもなれなくて、変わろうとして、変えられるものじゃないんだ。」
溢れだした言葉は止まらなくて、それでも洸汰くんは、立ったまま静かに、蹲った私を見下ろしていた。
「みんながみんな、なりたいものになれるわけなくて……諦めることも難しい。みんな、叶える方法はいくらでも教えてくれるのに、夢を諦める方法は誰も教えてくれないなんて……そんなのずるいよ。」
そこまでひと息で言って、ハッと顔を上げると、困惑した顔で洸汰くんは立っていた。
「安藤…?は?お前…ヒーロー科……だろ?雄英のヒーロー科が、何言ってんの…?」
「…あ、あれ?」
洸汰くんの言葉でハッとする。
私、なに言ってたんだろ。
誰のために、誰のことを言っていたんだろう。
慌てて笑顔を取り繕い、言葉を繕う。
ヒーロー科らしい、それらしい言葉を。彼が少しでも前に向ける言葉を。
「のっ、呪いって言ってもさ、言い換えれば……まっ、魔法!みんなを救える、ステキな魔法だよね。」
「……はぁ。魔法だなんて……バカバカしいな。」
「……でも、もしも、なんて、そんなの存在しないんだからさ。それだったら少しでもプラスに考えられたらなぁ…って。」
「……。」
洸汰くんは、少しだけ下を向いたあと、うるせえって呟いた。
……ごめんね。
きっと、分かってるんだよね。頭のいい君にはもう、こんなこと重々承知だよね。
頭で分かってても、そう思えないのが辛いんだよね。
「…ごめんなさい。偉そうなこと言って。」
下を向いた彼に、私は頭を下げて謝った。
私もなんだよ、とは言えなかった。