第23章 呪われ
ぷん、といい匂いがする。
食欲をそそる、スパイシーなあの匂い。子供ならみんな大好きなアレ。
「安藤!ご飯やって!」
「…あっ、うん。」
「いー匂いだよなぁ!カレー!」
「うん。カレー好き。」
疲れてるのに気合い十分な鋭児郎くんにひらべったい皿を渡され、言われるがままにご飯つける。
半強制的に鋭児郎くんのお供をさせられることとなり作ったカレーは、なかなかの出来だった。人参の乱切りに挑戦しようとしたら人参がふっとんで鍋にホールインワンした事件が起きたくらい。
朝ラグドールさんからいろいろ聞いたら私の頭はパンクしてしまって、頭を使わずにできる“トレーニング”に熱中することしか出来なかった。
前髪を噴水のように結んでピンで止め、後ろの髪もぎっちぎちに縛った、オシャレを極限まで捨てたスタイルで挑んだ。それで、トレーニングを終えてぼーっと左眼を手で隠してたら鋭児郎くんに連れてかれたという訳だ。
「できた。カレーのライスができた!」
「おー!じゃールーかけるぞ!」
鋭児郎くんがライスにトロリとルーをかける。
んううっ!このビジュアルは百点満点だっ!と、カレーを脳内で褒め称えると、自然と口角があがった。
そしてまた脳内にはあの問題が、嬉しくなると同時に、霧のように持ち上がる。
はぁ、個性。
サッと左眼を隠してみる。
そして手を外す。ぱっぱと何度がやってみた。見える景色は変わらなくて、茶色と白のコントラストが目に眩しい。
こんなの、呪いみたい。
「はぁ……。」
「どうした?ため息つくとカレー不味くなるぞ」
「こ、これはため息じゃなくて、し、深呼吸…だよ。胸いっぱいにカレーの匂いを……って」
ため息の言い訳を必死に考え、鋭児郎くんにかえす。今日は沢山笑うって、みんなの気持ちまでも下げないって、決めたから。
「いただきます。」
「いただきまーす!!」
カレーをスプーンで持ち上げ、一口食べる。
おいしい。
もうひと口、もうひと口と口に入れる。コクがあるって、言うのかな。コクってよくわかんないけど、多分コクがあっておいしいってやつ。
ぱっとカレーから顔を上げた時、目の端にまたあの小さな背中が映った。
1人で歩いていく彼を見て、スプーンが止まる。
ひとりは嫌だよなぁ。
私はまた彼の背中を追った。