第22章 must to be
「んん…?」
バスが止まったのを感じて、パチリと目を覚ます。
んんと目を擦りながら外を眺めると、外は真っ白でどうしたんだろうと少し不安になる。
バスの中のザワザワも全くなくなっていて、バスに、私一人のような気がした。
「みんな…?いないの……?」
「いるよっ!」
隣から、やけに元気な声がして驚いて隣に顔を向ける。
そこに居たのは、わたしの遠い記憶の中の、大切な影だった。
くりくりとしたアーモンド型の大きな目に、その下にある印象的な泣きボクロ。ちょんとのった可愛らしく形の良い鼻に、優しく弧を描いた口。
そう、確かそんな童顔で、
いつも、ニコニコ笑ってた。
「お、お父さん…!どうしてここに!?“治った”の!?“出てこれた”の!?」
どうしてここに?
なぜバスの中に?
そんな疑問が脳内を駆け巡った。
でも、ずっと会いたかった。
私は彼の袖をぎゅっと、離さないように握りしめた。
「お願い…!もうどこにも行かないで…!ずっと、そばにいて…!!寂しいの…!」
口からこぼれたその言葉は、私の心、ありのままで、わがままで、ずっと隠し通してきたものだった。
お父さんは、ニコニコと笑顔を浮かべたまま、口を開いた。
「無理だよ。」
「…え……?」
その、大好きな笑顔から発せられる言葉は何よりも重たくて、私は目を見開いた。
「お前のせいだろう?こうやって、お父さんも、お母さんも居なくなったのは。」
「…あっ、で、でも」
「全部、ひよこのせいじゃないか。」
その言葉で、私の頭には過去のことが流れ込んできた。
4歳の。
誕生日の前の日。
私は。
ほとんどの記憶を辿ったあと、私の手は自然と、がっちりと掴んでいたその袖を離していた。
「ぜんぶ……わたしの……」
「そうだよ。」
お父さんは、そこまで言うと、バスから降りていった。
「まっ、待ってよ!…どこにも……行かないでよ……。」
いくら席から立とうとしても、シートベルトが絡まって上手く抜け出せない。
「……ごめんなさい…いかないで……。」
『俺はどこにも、いかない。』
そんな言葉は、どこからともなく、優しく、暖かく聞こえてきた。