第22章 must to be
みんなでしりとりをしていた時だった。
青山の乗り物酔いを少しでも軽減すべく、みんなでしりとりをしていたのだ。
轟が天然を発揮し、パツンと言葉の繋がりが途切れた時、みんなは「あああ…」と落胆した。
こちらは、また違う「あああ!」に見舞われていた。
安藤はぐっすりで、しりとりもパスをした。梅雨ちゃんも、眠らせてあげて、と言ってくれていた。
轟が『氷点』としりとりを終わらせてしまった時、安藤の頭が俺の肩へずるずると倒れ込んできたのだ。
「…んぅ……」
あああ!?
俺の頭は一気に騒がしくなった。
なんかいい匂いするとか、思ったより軽いとか、あったかいなとか。思考が大渋滞を起こした。
何と間違えてか、片方の手は俺の服の袖をぎゅっと握っている。
うん。このままでいよう。着くまでこのままいよう。
肩が凝るとか、腕が痺れるとかはまた別だ。そんとき考えよう。今はこれでよしだ。
大渋滞中の脳内で、それが1本だけ通った思考だった。
それから、クイズのときも、峰田のエロ話のときも、梅雨ちゃんのちょっと怖い話のときも、安藤はぐっすり眠ったままだった。
俺の袖も、離さないまま。
「…お前ら、うるさい。もうすぐバス止まるぞ」
そんな先生の言葉を耳にした俺は、ちらりと安藤の様子を見た。
そのとき、キラリとなにか安藤の閉じた瞼から落ちたのを見た。
それは、涙だった。
緩い、無防備な顔のまんま、安藤は涙を零していた。
さすがに、夢にまで助けにはいけない。
そんなふうに戸惑っていると、俺の袖を掴んでいた指が、フッ外れた。