第22章 must to be
きゅっと上がっていた肩も下がって、緊張が少しほぐれたのを確認し、ほっと一息つく。
「おいおい!お前らだけ青春してんじゃねぇよ!」
ほっとしたのもつかの間。そんな野次を飛ばしてくるのは後ろの席でひとりの上鳴だった。
俺は、上鳴の隣から移動してきたのだ。
上鳴は椅子の上からから顔を出してブーブー言っている。
「わりいって!しゃーねぇだろ?」
「お前って、友情より恋をとるのな…。」
「そんなこと言うなよ!俺はどっちも取るぜ!」
そんな会話を繰り広げていると、隣の安藤の首が、かくんとおちたのが、目の端に見えた。
どうやら眠たいみたいで、かくんかくんともう2度ほどふねをこいだあと、顔を上げて目をこすった。
「眠いか?」
「…ねむくない……だから、おしゃべり……。だいじょうぶ……つまんなくなく、する……。」
安藤は、トロンとした目を頑張って開けてきっと眉を上げている。随分と天邪鬼なことを言う。なんか、子供みたいだ。
安藤に、そかそか、と優しく返し3人で話そうと、また上鳴に声をかけ、話を始める。どっちも取るって、言っちゃったしな。
「音楽流そうぜ!夏っぽいの!チューブだ、チューブ!」
「バッカ、夏といや、キャロルの夏の終わりだぜ」
「終わるのかよ」
そんな会話をし、全く会話に入ってこなかった安藤をもう1度みると、もう完全に夢の中だった。
大きなカバンに頭を預け、すやすやと安らかに寝息を立てている。
「うわぁ、寝るのはえぇ。完全にもうノンレムじゃん。」
上鳴が面白がって頬をぷにぷにつっつきながら言った。確かに夢も見ていなさそうな、惚れ惚れするほど穏やかな寝顔だ。
「おいセクハラ。」
「怒るなってー!」
その寝顔は、無防備で、ユルユルで、なんだか愛おしくて堪らない。
「おい、このままだと首、傷めんぞ?」
そして、安藤の頭を背もたれ部分に動かすというミッションを終えた俺は、クラスの会話の中へ入った。
青山が、酔ったらしい。