第22章 must to be
「A組のバスはこっちだ。席順に並びたまえ!」
みんなの浮き足立った空気の中、いつも通りの天哉くんの声が凛と響く。
皆は各々にウキウキとした会話を繰り広げている。しかし、私にはそんな元気なく、げっそりとしていた。
大きな荷物が肩から二つ下がり、その二つの重いのなんの。中には、家の子どもたちに勝手に入れられた水鉄砲やヨーヨー、オモチャのロボットなんてものも詰め込まれていた。ぼーっとしすぎて、出してくるのを忘れた。でも、左右の肩にかけられているため、バランスは取れていてたおかげに倒れることは無かった。
緊張と期待と不安で、昨日あまり眠れなかった私には、立っているのも難しく、フラフラと、うつらうつらしていた。
もっと心がぐじゅぐじゅしたらどうしようとかいろいろ考えてはいたけれど、すべては寝不足のぐじゅぐじゅで押しつぶされた。
みんながわいのわいのとやっている中、私はくらりくらりと夢の中へ飛び立とうとしていた。
「ひよこちゃん大丈夫かしら?随分眠たそうね。」
「…んうぅ…梅雨ちゃん…おはよう……わたし昨日、……緊張で…眠れ……なくて…」
「あら、バスの中で寝ていけばいいわ。」
「うん……そうす…る。」
目をゴシゴシとこすり、眠いながら、にぃっと全力で笑い返す。
梅雨ちゃんが行ってしまうと、ほへーとまた1人放心した。
ふいに、どこからがフッと言葉の断片が耳に入ってくる。
「適当に自由にすわろうよー」
その言葉に、フラフラとしていた体がぴきりと固まった。
その言葉には、悪い思い出しかないから。
私はずっと、友達が少なかった。遠足のバスの隣はいつも空席か、つまんなそうな顔をした子で。
サッと顔が青ざめた。
私の隣なんてきっとつまらない。きっとその誰かを、残念な気持ちにしてしまう。
焦った私は先に手を回しておこうと先生に話しかけた。
「せ…先生。」
「なんだ安藤。」
「私、乗り物酔いで……その、一番前が良いです!」
「わかった、早く座れ。」
乗り物酔いは、本当はそこまで酷くない。
慣れない嘘をついてみた。
皆が右往左往している中、私はさっと一番前を陣取る。持ってきた荷物をぎゅっと抱き締め、私はみんなが席につくのをただひたすら待った。