第22章 must to be
「これは絶対忘れちゃダメーってもの、なんかある?」
「あー、んー……着替えとか?」
玄関の、段差のところに腰を下ろし、出久くんと話す。
林間合宿のことでぐじゅぐじゅとする心も、出久くんとの会話は優しく、包み込んでくれた。
「というか、しおりをちゃんと読めばわかるよ。」
「うーん…そうなんだけどね…。こんなふうに、長い旅行に行くの、初めてだから…。すこーし、緊張してて。」
中学の時の修学旅行は、見事にピンポイントで風邪をひき、行けなかったことを覚えている。多分、女友達がいなかった私にとっては多分地獄だったと思うけど、行けなかったは行けなかったでそれなりに悔しい。
それに、こんなに長期間家を留守にすることが初めてで、ちょっぴり不安なんだ。
「そっかぁ…。」
「あぁ…ホームシックになったらどうしよう…!」
「あははっ大丈夫だよ!みんなもいるし。困ったら僕になんでも相談して!」
困ったら…なんでも……。
ぐわぁっとまた頬が赤くなって、それを悟られないように下を向いた。
「いつも、ありがとう…。」
下を向いたまま、ぽつりとひと言つぶやく。届いても、届かなくてもいいや。
「じゃあ、明日だねっ!」
ぱっと顔を上げてにぃっと笑う。
本当は不安でぐじゅぐじゅだけど、出久くんや、みんなと行けるのが楽しそうだっていうのも本当だから。
「楽しみ?」
「うん。でも、不安も大きいな。」
「そっか。」
にぃっと笑って手を振って。
私は緑谷家の扉をパタンと閉めた。
空を見上げると、星が瞬いていた。
夏のぬるい風を身体に感じながら、私はてくてくと歩く。
家から離れるのは不安だ。
でも、それはいつか必ず皆が通る道…。
そんな爺さんみたいな事をしみじみと考えながら、家路をゆっくりゆったり辿って行った。