第22章 must to be
はぁ、とひとつ息を揃えて、髪をぱっぱと整える。
そして、何を気にしちゃってるんだと顔がぼっと火照った。
よし、とひとつ気合を入れて、それからインターフォンを鳴らした。毎度こうなんだ。いっつも緊張しちゃって。爆豪家より…。
「はーい」
その声は、女の人のものではなく、男の人の声。それを聞いた私は、ぴきりと体を固くする。
だって、緑谷家のお父さんは今いらっしゃらないから、この声は…十中八九……
「あ、ひよこちゃん!」
「こっ!こんばんは!出久くん!」
出久くんだ。
白地に黒の字で“セーター”と書かれた謎のTシャツと、ラフな短パン。
全然ファッションの事はわかんないけれど、オシャレではないんだろうなと思うくらいの服。でも、出久くんが出てきてくれたことへの衝撃の方が勝っていた。
「ア、あのね、肉じゃが、おすそ分けっなん、です。」
「え!ほんとー?ありがとう!」
手の中のタッパーをぐいっと押し付けると、出久くんは笑顔を見せてくれた。
なんとなーく、胸がじわぁっと暖かくなって、自然と頬が緩む。
「おかーさん!ひよこちゃんに肉じゃがもらったー!」
「えー!あらほんと!?」
台所から引子さんが飛び出してきて、ぺこりと頭を下げてくれる。あわあわとした後、私もぺこりと頭を下げる。
「いっつもごめんね!あー…晩ご飯終わっちゃった…」
「明日にでも食べようよ!」
そんな暖かい親子の会話は、なぜだか遠く感じて、私は目を細めた。
「わざわざごめんね!」
うん、と返事し、私は帰ろうとした。
しかし、さっきの失態を思い出し、あっ、と声を上げた。
「荷物っ…て、もう用意した?」
「荷物…って、明日の?」
「うんうん。」
終わりそうになっていた会話が再スタートする。
胸がもう1度、暖かくなった。