第21章 〈番外編〉Over The Rainbow
「いや……こいつ、心が欲しかったんだろ?」
「うん…。」
静かな教室に、声が響く。
でもなんだか、さっきミュージックプレーヤーで曲を聴いていたよりずっとずっと賑やかで穏やかな気がする。
轟くんの声は優しくて、落ち着いてて、世にいうイケボってやつだと思う。
そんな声を今、私は独り占めしてしまっている。
そんなこと許されるのかと一瞬不安になった。
そんな不安お構い無しに彼の優しい声は続いた。
「俺も、ちゃんと誰かの心を理解できるようになりたいから。」
「心を、理解?」
「それも、心だろ?」
その優しい声が紡ぐ言葉はちょっぴり不可解で、私は彼を見上げてかくんと首を傾げた。
でも、そこから繋がる言葉は、優しくて。私には勿体なくて心地いい言葉だった。
「俺、あんま安藤の気持ちを理解出来てねぇみたいだから。」
「へ?」
「時々お前、悲しそうな顔するだろ。そういう時、お前何考えてんだってわかんねぇから。分かったら、どうしてやればいいのかもわかんだろ?……友達なんだから、そんぐらいしてやりてぇ。」
その暖かくて優しい言葉は、私の心のヒビに入って染みて、暖める。砂漠にしみていく、水のように。
私は口を1度開いたけど、その口はぱくぱくした後もう1度閉じ下を向いた。轟くんは、どんな顔をしているんだろう。
伝えたいことがたくさんで、上手くまとまんない。
嬉しいよ。
そう思ってくれることが、友達でいてくれるだけで、それが1番嬉しいんだよ。だから、だからね。
言葉の代わりに目尻から水が溢れそうになった。
私は慌てて目をゴシゴシと擦り、轟くんに向いた。
「あ…ありがとう。」
「お?いや、まだなにも」
「ううん。ありがとうなんだよ。もう、ありがとうなんだよ。」
嬉しくて嬉しくて、私はにいっと笑った。
それで伝わるかな。私がどれだけ、嬉しいのか。
「轟くんとなら、勇気だってすぐ見つけられそうだよ。」
「そうか。良く分からんがそれなら良かった。」
轟くんも、ふっと笑った。
あぁ、格好良いななんて、思ったりして。
あの物語の3人組は、一体どうやって望みのものを貰ったんだっけ。
なんでもいいや。
私にも、素敵な友達がいるから、きっとその3人組より素敵なものを見つけられるはずだ。
その日は、轟くんと2人で帰った。
