第21章 〈番外編〉Over The Rainbow
「それはね」
話していると、腕の中の小さな体温が、少しだけ高くなったのを感じた。
ふとその顔を見ると、ひよこはもう、ぐっすりと眠っていた。
その顔を見るだけで心は緩んで穏やかになる。1番幸せになれる。
お父さんはまだ帰ってきていない。
お父さん帰ってこないうちに寝ちゃったよって、ぐずるかな。
すやすやと眠るひよこの頬を優しく撫で、さっきまで朗読していた本を手に取る。
そして、その3人組をすっとさする。
ひよこは、小さい時から身体が弱くて、外に出ることがあまり出来なかった。ひよこはそのせいで友達づくりが下手っぴだ。そのせいで、自分は弱虫だと思ってしまっている。
この絵本のこの3人組と、同じ。
この3人組は旅の中で、自分の中にはもう、脳みそも心も勇気もあるって気づく。
思い込んでるだけだって、気づく。
誰にだって脳みそはあるし、心だって、勇気だってある。
勇気は自分の胸から引き出すもの。貰うものじゃない。
うーん、伝わったかな。
わかんないや。
お母さんって、難しい。自分がお母さんを知らないから、なおさらかもしれない。
お母さんって、どうやればお母さんなんだろう。ちゃんとお母さんやれてるかな。
どうすればひよこは笑ってくれるのかな。笑顔になってくれるなら、なんだってやってあげたい。
「んうぅ……」
「ほら、ちゃんとベッドにいこう?」
「んんん…」
ぐずるひよこを持ち上げて、ベッドへ運んだ。
なんだか、重くなったな。
大きくなったんだな。そんなふうに改めて思った。
本当はね、生まれてきてくれただけで、充分なの。それで、少しでも成長出来たらいいって思う。もちろん、大人になったひよこも、見たいな。
すんとひよこの匂いを嗅ぐと、おひさまのにおいがした。このにおいは、生まれた時から変わらない。
いつか、この子の勇気を引き出してくれる人が、現れるのかな。若しかしたそれは恋人かもしれないし、大切な友達かもしれない。
そんな人に、会えたらいいななんて、ひよこの寝顔を見ながらひっそりと願った。