第21章 〈番外編〉Over The Rainbow
誰かに歌を聴かれるのは初めてだった。
カラオケなんかもちろん行ったこと無いし、そんなに得意じゃないし。
まして、1人教室で歌ってるなんて……!
「き、聴いてなかったことに…してくれる?」
目の前で涼しい顔をした轟くんに懇願する。
彼は全然何事も無かったかのようなかんじなのに、私は真っ赤になって1人テンパっている。そこもなんか恥ずかしい。
「…聴いてなかったことには出来ねぇな。」
「えぇ!?…じゃ、じゃあこの事は誰にも言わないで!」
「分かった。」
「ほっ……」
教室で熱唱してたなんて言いふらされたら私、学校へ来れなくなる。トウコウキョヒだ。トウキョウコーヒー!
「安藤さっき歌ってた歌、なんだ?」
「えっ!!あっ……えーっと……」
轟くんは傷口に塩を塗り込んで爪で引っ掻いてきた。
そこは掘り返して欲しくなかった。
目が泳ぎまくり、指を机の上でいじいじしまくった。
そんな姿に見かねたのか、轟くんは声を上げた。
「別に歌、上手かったと思うけどな。」
「あ…えっと…そ、そういう……問題じゃ……」
驚いて轟くんを見上げると、また涼しい顔をしている。顔がもっと赤くなっていく。もう首まで赤い。
正直、上手かったって言われたの…すっごい嬉しいし。
でも、そんなにがっつり聞かれてたんだって…すっごい恥ずかしいし。
「なんの歌なんだ?」
「…お、おーばーざ、れいんぼー…。」
俯いたままポツリと呟いた。