第21章 〈番外編〉Over The Rainbow
Side轟焦凍
「お、やべ……。」
帰ろうとしたとき、ふと教室にまだ筆箱を置いたままだったことに気がついた。
玄関に向けていたつま先を、くるりと教室へ向ける。
今廊下には、自分の足音しか響いていない。誰もいない校内に、なんだか1人だけなような気がする。
なんとなく、足を速くした。
「お?」
足音しか無かった廊下に突然、音が増えた。
柔らかくって、優しくて、暖かい。
誰かの、声だった。
歌を歌っているようで。
どこかで聴いたようなその声は、教室に近づくにつれ、音が大きくなっていった。
「…誰か教室にいんのか……?」
教室の扉の前に立つと、その声はまた大きく聴こえた。
この歌も、どこかで聴いたことがある。
異国の言葉で、意味ははっきりとは分からなかった。
扉にふれ、じっと目を瞑った。
なんだか、もう少しだけ聴いていたい。
虹の向こうの、どこか遠くに。
信じていた夢がすべて叶う場所がある。
私にも、きっと行けるはず。
そう、夢を叶えようとする歌だったような。
ちゃんとは分からないけど、たぶんそう。たぶんそんな感じ。
フッと歌の声がきえ、ハッとする。
そうだ、忘れもん。
2回ほど瞬きをして、それから扉を開いた。
ガラガラと開けたその先には、目を大きく広げ呆然と座っている安藤の姿があった。
「……き、きいてた…?」
「あぁ。さっきの歌って安藤だったのか。」
「…ひ、びぁああああ!」
「うぉ」
答えるや否や安藤は顔を真っ赤にして奇声をあげた。
結構、びっくりした。