第21章 〈番外編〉Over The Rainbow
ドシンっ
その大きな音で私は目を覚ました。
…目を覚ました?
寝てたんだっけ?いつ寝たんだろう?
そこは私のよく知った部屋だった。
そして隣にある何かに気づく。
「もふもふの……もっぷ?」
黒くてもふもふの、モップのような……
「ワンッ」
「犬だ!!」
動き出したもふもふの犬は嬉しそうに尻尾を振っている。
「なんなんだろう…このこ……何処かで…。」
そのわんこを抱き上げ首を傾げる。
「ワフっ」
「かわいいなぁ!…うーん……なんなんだろう…。このこ一体なに…?」
取り敢えずおばさんに話してみようと部屋をでる。
「おばさーん?みんなー?」
しかし家の中をどれだけ探しても誰もいなかった。それに、なんだか妙だ。少し家が傾いているような…。
「変なの。取り敢えず外いく?」
「ワフっ」
「おっ!お利口さん!」
犬に話しかけると、なんとなく返事のようなものをしてくれた。そのワンコと意見が一致したところで玄関に足を向けた。
そして扉を開けるとそこには、
「…え……何ここ……」
「ワンワンっ!」
日本語で言うと桃源郷のような……天国のような…。
光を反射してキラキラと輝く小川。見たこともない程色鮮やかで美しい花花。私の腕からするりとぬけていったワンコはそこを嬉しそうに飛び回っている。
そして、地面には黄色いレンガの道。
その景色には、何処か見覚えがあった。
「もしかして……トト…?…オズの……?そ、そんな馬鹿な。」
私も高校生だ。そんなファンタジーありえないって事は知っている。
夢の叶う国なんて、虹の向こうの国なんて。
夢の中……なのかな?
でも…“オズの魔法使い”の世界の中だとしたら、
今だけは、私も“ドロシー”になれるってことかな?
「ビックリしてる?」
「…も、もちろん……ってわぁっ!!」
ぼうっとその景色を眺めていたら隣から、なんだか知っている声が聞こえてきた。
確か物語だと声をかけてくれる人の正体は良い魔女で…すごく綺麗な人なはず…。なのに……
「…な、何してるの…?出久くん…?」
そこに居たのは毎日顔を突き合わせているといっても過言ではなく、そして私の想いの人、出久くんが立っていた。ドレス姿じゃなくて、ちゃんと綺麗なスーツで。