第20章 醒めない夢
Side相澤消太
リカバリーガールに呼ばれ、保健室に歩いている。
安藤のこと、だそうだ。
普通で、異質な生徒のことだ。
あの顔を頭に浮かべると、少し急ぎ足になった。
あの顔を思い浮かべると決まってその隣に浮かぶのが、普さんの笑顔だ。
自然と額にシワがよった。
ポケットの中の手にぐっと力が入る。
なんとかしよう、どうにかしようと後回しにしていたことだ。後回しにすることはやはり合理性に欠いていたのだ。
「リカバリーガール!安藤は」
「はい。安藤です。」
俺の目にはリカバリーガールの前で茶を啜る安藤が写った。
「はんなりしてんじゃねぇか…。」
「安藤、平気ですよ。」
「こら」
「いたっ」
無理に笑った安藤をリカバリーガールがコツんと殴った。そうしたら安藤の仮面が剥がれて本当の、痛そうな顔をした。
『消太くん!困ったことがあったらなんでも言ってね。きっと力になるからね!』
あぁ嫌だ。
あの人のこと、思い出す。
楽しくて、優しい思い出ばかりで。だからこそ、目の前の少女が抱えている痛みが分かるような気がして。
「…今度の林間合宿、お前休むか?」
「え……いっ、嫌だ!」
嫌だと言ったその顔に、全く嘘は見えなくて、言葉を間違えたのではないかと一瞬後悔した。
「じゃあ行くか?」
「…」
安藤は無言で力強く頷いた。
「強化合宿なんですよね。なら、行かなきゃですよね…。だって……」
胸の前でぐっと手を握り意気込んでいる。
少し不安げな、でも、決意の強い顔。
あぁ、あの人ならば、きっとすぐに不安を取り除けるんだろうな。あの優しい笑顔で、きっとすぐに笑顔に出来るんだろうな。
「ん。頑張ってるんだから。……上手いことは言えないけどな……。じゃあ一緒に行くか。」
「うん。…うん。頑張る…。一緒に…行く。ありがとう…先生。」
頭にポンと手を置くと、その大きな瞳からポロポロと涙が溢れてきた。暖かい涙が、ぽろぽろと。
これで、あっているのだろうか。
涙を零しているけれど、それで本当に正しいのだろうか。
教師としては長いけれど、目の前の小さな少女の涙の止め方は、どうしても分からなかった。