第20章 醒めない夢
怖かった。
守られる為に来たんだと伝えてしまえば、もう対等な友達ではいられなくなってしまうんじゃないかって。
だから先生にやめてとお願いした。
私は守られる対象だと言うのはやめてと。
たとえいつかバレてしまうことでも、みんなの前で言うのはやめてと。
でも今私は、目の前の彼に、目の前の漢気溢れる彼に、知って欲しいと思っている。胸の奥からなにかがぐうっと熱く湧き上がる感じがして、喉のあたりでとまった。
「本当のこと知っても…友達で、いてくれる?」
「当たり前だろ!」
おずおずと零れた言葉にも、彼はすぐに、力強く答えてくれた。それが凄く、嬉しかった。
「私、敵連合から守られるためにきた。」
雄英高校に来たのは、その設備や先生に守ってもらうため。ヒーロー科に来たのは、敵の目を欺くため、そして、
「みんなに、守られるために来たの。」
ヒーロー科なら、先生だけでなく、生徒にも守ってもらえる。
あの日、校長先生が初めて家に来た日、玄関に入ってすぐその言葉が聞こえたのを覚えている。その時は何も思わなかったけど、何故だかずっと、胸に残っていた。
「私、みんなのお荷物なの。…それが嫌で、自分でなにか出来ないかって、それで動くと、今度はもっとみんなに迷惑かけてしまうの。」
溢れると止まらなくて、涙も、ずっと止まらなくて。
「私、みんなと一緒になりたい……。」
一緒に。
対等に。
個性や運動能力、学力だって及ばない。
でも、隣に立っていたい。
でも私には大きな大きな秘密があって、それは大きな壁になって。
きっと、一緒にはなれない。でも、
「もっと、強くなりたい。」
それは、終わらないマラソンのようで。
ゴールはずっと遠くで。今もなおゴールは動いて、遠ざかっていく。
「でもね、ちょっとね…しんどい……みたいだ…っく。それだけ…。大丈夫。ただ、そんだけ。」
にっと笑って見せようとすると、鋭児郎くんはまた頬を抓って、それから私の頬を包み込んだ。
「俺も、一緒だ。だから、」
「…ほっぺ、痛いよ。」
その言葉は、マラソン大会の前の宛にならない約束みたいに聞こえた。
大丈夫。
私はまだ、独りでも平気だよ。
きっと追いつくからね。
それは声には出せなくて、口からは痛いという言葉しかでてこなかった。