第20章 醒めない夢
Side切島鋭児郎
『痛いなぁ…』
さっきの小さな声が頭の中でグルグルと回った。
あの時、なんて言ってあげればいいのか分からなくて。
「んん……」
「おーい。どーした切島ー?」
「あぁ…ちょっとなぁ……」
机に突っ伏していると前の上鳴が声をかけてきた。
声を、かけてくれた。
「なぁ、悩んでる人に……ううん……うわぁぁ…」
「わーぉ…こりゃ本格的だな…。」
言葉が込み入って出てこない。
声をかけてあげたくて。
力になりたくて。
でもその方法が分からないんだ。
「思春期だねぇ……。思春期は悩みの季節だよなぁ…。うんうん。悩め悩め。」
「お前はなんだよ……。」
達観したフリをした上鳴にじとりと視線を送る。
「思春期…かぁ……。」
口に出したその単語に、なんだか少しムッとする。
その一言でこの悩みが、この苦しみが表されるなんてたまったもんじゃない。
それでもきっと、その言葉が示す期間はきっと、悩み続けることになるんだろう。キラキラだけでなく、こんな悩みだって、きっと。
「まぁもうすぐ林間合宿だからな!なはは!悩みなんか忘れて、楽しもーぜー!」
「あっ……そうだな!」
そうだ。林間合宿、一緒に楽しめばいいんじゃないのか?
一緒に楽しくなれば、きっと笑った顔が見れる。本当に、笑った顔が。
少しでもいい。
笑顔がみたいんだ。
「おぉー林間合宿!超楽しみになってきたぜー!」
「わー、情緒不安定!これも思春期だー!一緒に楽しもうぜー!」
そして少しの希望を胸に、俺たちは長い長い夏休みに突入していった。全く予想もしていなかった、あの激動の夏休みに。