第20章 醒めない夢
チクチクする制服に身を包んだまま、私は何とか朝ごはんを食べて靴を履いた。
外の空気を吸うと、少しだけ気持ちがスっとしてなんとか足は動かすことが出来た。
そう。いつもこうやってたよね。こう、やってたよね。大丈夫。平気。だから、だから今日は、誰にも迷惑かけない。
足を見て、自分の靴を見て自分の歩幅がどれだけなのかを確認しながら歩いて、電車の中では、ほかの人の脚を見ていた。
そしてついた学校では、見ていた歩幅が少しだけ小さくなった。制服がチクチク痛くて息が苦しい。
教室の前に着いて、戸を開ける。開けなきゃいけない。
手を伸ばして、その戸に触れると、またバチバチと電流が走ったような気がして手を離した。
「安藤?なにしてんの?」
「っ!」
驚いて後ろを向くと、そこには鋭児郎くんが立っていた。なんだか顔が見れなかった。
「あ……おは、よう。」
「おはよ!どうした?顔色悪いし、いつもより寝癖が」
髪に手を伸ばされて、驚いて手をパチンと払う。
「あ、安藤?」
「あ……ご、ごめんなさい。ごめん。痛かった?」
「いや、全然。本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫!大丈夫!!平気!…えへ…」
へらり
私は必死に大丈夫と言って、必死に笑顔をつくった。大丈夫、ちゃんと笑顔になれた筈だよね。
教室に入ってからも、今日はなんだかおかしくて。
普通にできなくなった。どうしよう。
ずっと下を向いて、私は今日はずっと独りでいた。
独りでも、平気だ。案外平気だ。
なのに、声をかけてくれる人がいた。
「安藤!今日おかしいぞ。どうしたんだ?」
「え、えいじろ……くん…」
優しい声と優しい疑問。
へらり
「だ……大丈夫!だよ。ほらね!」
「だから、」
鋭児郎くんは私の頬に手を伸ばすと、ぐにっと抓った。
「いひゃっ」
「無理に笑うなよ!」
痛いよ。ほっぺ。
「い、いひゃいなぁ。いひゃいよ…」
だんだん前が見えなくなって、目が熱くなって、たくさん痛くなった。
本当に、どうしちゃったんだろう。私。
「……安藤、保健室行こう!」
「へ?」
鋭児郎くんにぐんと手を引かれ、そのまま私は教室を出た。手が触れているところから、今日初めて体温を感じた。
「なんで、保健室?」
「だって、痛いんだろ!」