第18章 あなたは特別な人
「ただいまー。」
「おかえりなさい。」
家に帰ってくると、夜ご飯のいい匂いがした。
「おかえりー!!」
「ねーちゃんおかえり!」
パタパタと小さな足音が聞こえる。みんなが駆け寄ってきてくれて、私の手には、いつもとおなじに一輪の花がある。いつもの商店街で買ってきたやつ。これが私の日常。いつもの生活。
「ただいま!今日も一日元気でしたか?」
「うん!」
「ばっちしだー!」
奥からもう一つ、落ち着いた足音が聞こえる。
「お、優。ただいま!」
「ひよこおかえり。」
「また学校休んだの?」
「うん。」
中学生になった優は、最近よく学校を休んでいる。
「学校もなかなかいいよ?」
私は頭にみんなを思い浮かべ、にやける顔で言う。
「いろんな出会いがあって…友達ができたよ。行ってみたら?」
「……わざわざ知ってること教わりに?」
「あぁ……そっかぁ…。」
なんの表情も変えず彼は言う。
優はとんでもなく頭が良くて、ひねくれている。頭がいいのは個性の関係でもあるんだけど、やっぱりちょっと羨ましい。私もそのセリフ言ってみたい。
「……まぁいいや!優の好きな時に行ってきなよ。優が後悔しなければ、何だっていいよ。」
「ん。」
そう言うと彼はクルリと踵を返し、部屋に戻って行った。裸足で、ぺたぺたと音を立てて。
寝癖のついている頭は、私より少し上にある。おっきくなったなぁなんてボーッと思った。
いろいろ、大変だったな。優が最初に来た頃は。
まぁ、あの子は頭がいいから多分大丈夫。きっとなるようになるんだろう。
「じゃあ私も着替えなきゃなぁ…。」
そうひと息つこうとした時だった。
ピンポピピピピンポーン
インターフォンが連打され、ハッとする。
「ひよこー!出てちょうだい!」
「はーい。」
インターフォンを連打するなんていったいどんな人なんだ。
私は手に持っていた花を置いて、扉をがチャリと開ける。
そこには、
「おい…クソたまご……。いい度胸してんじゃねぇか……。」
「…ぁ…。」
手に油性ペンを持って、頬にはなまるのある悪魔が立っていた。
「か、かかか…勝己くん…!!」
私はその、ブチ切れすぎて静かに言葉を発する悪魔を見て、死を覚悟した。