第18章 あなたは特別な人
「んん……。」
「ひっ!?」
パチンと音を立てて蓋がしまった瞬間、勝己くんが薄らと目を開いた。私は慌ててペンを後ろに隠して勝己くんに向き合う。
「おっ、おっはよう!」
「おはよう。」
「……るせぇ…。」
寝起きの勝己くんはなんだかいつものような覇気が無くて、なんかちょっぴり可愛い。
ほっぺたの落書きに全然気づいてなくて少し顔がにやける。
「おい、お前らなんでニヤニヤしてやがる。後ろに何隠した。」
「な、なんでもない。」
「な、な…なんにも隠してないよ?ほらね?」
「ちっ……。」
ペンを咄嗟にポケットに入れて両手をヒラヒラとして見せる。
いつもの勝己くんにならすぐ、ポケット見せろ!ってバレるだろうけど、寝起きの彼にはバレなかった。
「ふ、2人の試験ね、見てたよ。モニタールームで。」
「見てたんかてめぇ……。」
話の転換を試み、試験の話をする。
そうだ。2人が心配だったことを伝えよう。
「怖かった……な。ヒーローになったら、あれが日常茶飯事になっちゃうんだよね。……ヒーローだからって、痛くないわけじゃないんだよね…。」
「そう…だけど……。」
「んなもん気にしてられるか。」
「……そうだよね…。ごめんね、変な事言って。」
痛みがわからなくなったら、人に優しく出来なくなってしまう。
だけど、痛いのは…嫌だ。
それくらい耐えていかないと、ちゃんとヒーローには成れない。難しいな。
「守る人を不安にさせちゃ、だめだよ。」
それは今日守られる側の人間をやって、一つだけ言えること。
でも、それに返した彼の言葉は、真っ直ぐで、ただただ真っ直ぐでかっこいいものだった。
「…勝ちゃ、んなもんなくなんだろ。」
その言葉に、私は目を見開いた。
「そっか……そうだね!」
なんだか嬉しくて、心が暖かくなって、思わずにぃっと笑ってしまった。
勝己くんはそうだったよね。変わってないなぁ。
「ふん。」
勝己くんのほっぺたの“はなまる”が、少し揺れるのを見て、私またにぃっと笑った。