第18章 あなたは特別な人
「もうケンカはしたくないね。」
「うーん…たまにはいいんじゃないかな。」
「えぇー!やだよぉ。」
そんなふうに出久くんと話す。
こんな感じに2人で話すの、久しぶりな気がする。
嬉しい。
もうあんな不安な思いしたくないのに、出久くんはたまにはいいなんて言う。変なの。
「勝己くんはまだ起きないの?」
「うーん、そうだね。」
その寝顔は、いつもの怖い顔なんて想像出来ないくらい安らかなものだった。
寝顔はなにも、変わってないんだ。
その無防備な寝顔を見ていると、ムクムクっとある心が生まれてきた。
「ねぇ…出久くん?」
「どうしたの?」
「ここにさ、油性ペンがあるよ……。」
「うん。……え?」
その心というのも、“イタズラ心”だ。
「まさか、そんな危険なことを……?」
「だって……今しかできないよ…?」
勝己くんはすやすやと眠っている。その顔が私のイタズラ心を生んでいるとはつゆとも知らず。
うずうずした心は止めることはできず、私は油性ペンを手に取る。
「ひよこちゃん……僕知らないよ?」
「バレなければへーきだよ。」
油性ペンを持ち、彼に近づく。
本当に安らかだ…。無害……。
でもその顔には、ちょっぴり泥がついていて、怪我があって…。
そっか、たくさん頑張ったんだもんね。
「出久くんには悪いけど……やっぱり勝己くんに人に合わせろって……酷だった…のかな。すごく、頑張ってたもんね。」
「…うん。」
じゃあ書くのはあれだね。
ペンの蓋を取り、きゅっきゅとほっぺたに落書きをする。
「へっへっへ……」
「僕知らないよ…?」
「大丈夫!バレなければへーき!」
私は満足した顔で、ペンのふたを閉めた。