第14章 青くさい春。
「安藤…。なにしてんの?」
「もしかして、あいつ?きりし」
「あっ、あのさ!!」
続く言葉が怖い私は電気くんの言葉を遮った。
もしかしたら彼は、もう…。だったら彼は…私を……。
「き、切島くんさ、ま、まだ帰らないの…?教室にいるの?」
半分、祈るように。
目の前のふたりは顔を見合わせると申し訳なさそうに眉を下げた。
「あいつ…さっき裏門から帰った。」
「えっ」
「わりぃな、ずっと切島待ってたんだろ?」
裏門から…帰った……。
途端に不安が心を占領した。足元がまるごとなくなって、下へ落ちちゃうような、そんな不安。
もしこのまま、ずっと避けられたら……?もしかしたらずっと話せないかもしれない。
友達じゃなくなるかもしれない。
他人になってしまうかもしれない。他人より遠い…何かになってしまうかもしれない。
『どうした安藤?』
……そんなの、絶対イヤだ!!
「あ、あの!切島くんちって、近いのかな?」
「え?さぁ、知んねぇけど」
「こっちの方向?」
「あぁ。いっつもこっちに帰ってる。」
「ありがとう!!」
「あ、安藤!?」
それだけ聞くと、私は走り出した。
電気くんと範太くんが凄く驚いた顔をしている。ごめんって明日謝ろう。
ダメだったんだ。待ってるだけじゃ。このまま待ってるだけじゃ、きっとこのまま話せないんだ。
私は息を切らして走った。
ただ走って、誰でもすぐ分かるようなあの赤い髪を探した。
裏門をくぐって、
坂を降って、
転びそうになって。
どれくらい走ったか。
道を歩く人の中に赤く、ツンツンのあの髪を見つけた。
「きりっ……鋭児郎くーーーん!!!」
あの頭が振り返る。
私はまた叫んだ。
「鋭児郎くん!!!まってよ……まってよーーー!!!!」
「あ、安藤…?」
その時の私の顔は多分、泣きそうだったと思う。