第9章 英雄の後ろ姿
恐る恐る、口を開く。緊張で口の中がパサパサだ。声を出そうとしたら、喉がヒュっと変な音に鳴った。
それでも、今はこれしか考えつかない。
「あっ、あの、なんで、こんなことするんですか?沢山の、人を、傷つける、のは、やめて、くれませんか?」
「……安藤、くん?」
「……。」
天哉くんがちょっと困惑したような声を出した。ヒーロー殺しも心做しか凄く不思議そうな顔をしているような……。
私は、というと……もう後悔していた。
な……何をやってるんだ私は!?敵がこんな言葉に答えてくれるわけないだろ!?
「た、たくさんのひとが、悲しんでて、たくさんの人が、く、苦しんで、るんです。お、おお、お願いします!もう、こんなこと、やめてください!」
こうするしか方法が、分からなくて、ガクガク震えながらへっぴり腰で構え、訴えかける。我ながら、今めちゃくちゃかっこ悪い。
「………止めるわけないだろう。なぜこんなことをするかか?…決まっている。こいつらがニセモノだからだ。ヒーローのニセモノがこの世の中を悪くしているんだ。正しき社会にする為に俺はこいつを殺す。殺す義務がある。」
え………こ、答えてくれた!!!ちゃんと答えてくれる人なんだ!!
優し……くはないけど。
彼のその言葉を聞いて、この人はなにか、考えがあるんだとわかった。こんなことをするのにも、きっとなにか理由があるんだと。
『正義の反対は、もう1人の、誰かの正義なんだよ。』
じゃあ、その理由を、聞かせて欲しい。
『言い訳を、聞かせて欲しいんだ。』
彼をちゃんと知りたい。
「安藤、くん?」
「あの……ニセモノってどういうことですか?」
きっと、背を向けたら、解決しない。
この人に、真正面から向き合わなければ。
この人を真正面から、知るために。
気がつくと、体の震えはもう、収まっていた。